眼光紙背 深き闇の魂

□一章 知者楽水
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それは、今から約一ヶ月ほど前のこと。









地方官吏は、税を納めない者に対し、無理矢理家に押しかけて税を徴収することがある。

だが、ちゃんと税を納めている町民に対しても、税を納めていないものとして家に押しかけ、無理矢理税を納めさせた男がいた。

その男は、何回どころではなく、何十回も犯行を繰り返していた。










この期に及ぶまで御史台に気づかれなかったのは奇跡だった。





その官吏は現在、御史台の牢につながれている。









が、その男の罪を暴いたのは御史ではない。




その男の罪を暴いたのは、一人の女だった。

◇◆◇◆◇◆◇◆

この日、不正な税の徴収をしに町へむかった男の軒の前に、一人の女が躍り出た。

驚いて、何者なのか突き止める間もなく軒を倒された。馭者はすでに逃げ出していて、もう馬の姿も見えなくなっていた。



軒の前に立った女が片頬を歪め、にやりと笑った。



「醜悪なる魂よ。
今、その魂を浄化するとき。
我が名は『青鷺』。闇の炎を清めし者。
我の演舞をとくとご覧あれ!

…さぁ、始めようか。」



静かな声だった。
何かの仕来りのような言葉を口にすると、目にもとまらぬ早さで軒を切り捨て、男のすぐ目の前に立った。

男は腰を抜かして尻もちをつき、女を見上げた。

…すると女は言った。

「生きろ。お前は多くの罪を背負った。
その償いをすべく…」

そこで言葉を句切り、凍えるほど鋭く、冷たい瞳で男を見下ろし、もう一度。

「生きろ。」

その言葉さえ、氷の刃となって男に突き刺さった。




…そして、女は怯えて震える男の首筋に手刀を叩き入れた。










男が気を失ったのを確認すると、女は身を翻し、もと来た道を戻っていった。


…女は、獲物を狙う蛇のように、紅く血濡れたような舌で口許をチロチロと舐めた。




…次の獲物は、何にしようか。


















それから御史台がうつ伏せに倒れた彼を発見し、間もなく捕縛された。

◇◆◇◆◇◆◇◆

















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