銀の書

□最後の約束
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『今年は実家に帰らないから。』




そうやって君に告げられたのは、3日前の事でハナっから帰る気がなかった俺からすれば、



「だからどーしてほしいんだ?」



と言いたい気持ちでいっぱいだった。








大掃除が終わった7畳の部屋。
4年間の1人暮らしの相方は、最初出会った頃より随分愛着が沸き、
次の誰かがこの部屋を使うのかと思うと不思議なくらい、俺になじんでいた。


実家に帰るより、
この部屋にいたいと思ったのは、去年までとは違う気持ちがした。

1人で年越番組を見る。
1人だから特に何か年越な雰囲気もなく、ただなんとなく時間が過ぎるのを待っていた。




そんな部屋に君が来たのは、夕方5時過ぎ。
寿司のパックや惣菜やらを入れた近くのスーパーの袋をさげて


『お邪魔します。』


と言った時、


「来たのかよッ。」


と思わず突っ込んでしまった。



マイペース。


本当にこの一言が似合う事で。
(どっかのドS野郎とイイ勝負だ)



なんで、俺の部屋なんだ。
なんで、実家に帰らずココに来たんだ。

君の考えてる事はいつも少し分からなくて、
君の気持ちに気付くのは時間がかかる。
(君が俺を好きなんだと知るのも時間がかかった)





1人だった部屋に君が来て、机に並べられた少し豪華な晩御飯。
地元にいた時の年越をうっすら思い出す、そんな一時。



テレビから流れる音楽番組や、お笑い番組がさっきより色が変わって見えるのは、
1人じゃなくなったから?



『お酒飲みましょう!』


年忘れ、年納め。

そんな事言いながら次々に開いていく缶ビールと缶チューハイの缶に呆れながらも、付き合う自分に甘いなとも思った。


まぁ、年末だから許してやるよ。






『ねぇ、先輩。』



そんなに強くない君は、
トロンとした目で俺を瞳に写す。
さっきまでたわいない話と、テレビが喋るだけだった部屋に、君の声が通る。




『最初で最後?』




発せられた言葉の意味に少し悩む。



『最後の2人での年越カナ。』



今度は質問じゃなくて、
自分に言い聞かせる様に呟いた一言。





ああ。



君はマイペース。
君の伝えたい事は3日前からここにあったのか。









12月31日午後11時59分




「この先もお前が望むなら2人での年越しは実行だろ。」


大学生活最後の年越し。
本年最後の君への約束。





→戯れ言

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