短編

□1.6
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大きな鐘が揺れる。

それを武器として扱う男は、自分の周りをぐるりと見渡した。その視界に映るのは地面に転がるもてあまし者達。と言う訳も、彼らが下層近くの中層エリアで幅をきかせていた面倒な連中であるという事に他ならない。

鐘を持つ彼は、以前からその者供の存在は把握していた。そしてついに先日、自分の勤める職場の従業員が例の輩達に絡まれ困っているという話を聞いた次第であった。

大切な家族に危害を与える。
そんな奴らは自分が何とかしなければ。

そうして、現状。
割と簡単に、もてあまし者達は彼の手によって制裁を与えられたという事である。

そういえば、と当人の男は思い出す。幼い頃にもこんな事をしていた時があった。あの時は何の力も無かった自身も今では立派なハンターだ。

なんとなく視線を己の右手へ移し、無意識に作った拳にぎゅっと力を込める。今度こそは、取りこぼさないように、守ってあげるのだ。彼の紫帯びた黒髪は深い夜空色に見えた。その隙間から覗く赤い瞳は相違して細く光を反射する。その目には視界にある拳では無い、遠い過去を映しているのだろう。

そこで自分の名前を呼ぶ、少しおっとりとした女の声が聞こえてきた。ふと、過去から引っ張り上げてきた自身の意識をそちらの方へ向ける。さて、仕事の途中だったな。倒れている奴らはそのままに、彼は声の聞こえた大通りの方向へ足を向けた。迷いなく進む黒いKrampen、鐘を鳴らす青年が帰る場所はいつでも愛する家族の元。

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裏路地から出てきた男を見つけ、一直線に駆け出した女は何も無い所で躓き、持っていた荷物を盛大にばら撒いた。それを確認し、ついため息をついた彼は、慣れた手つきで その散らばった荷物を回収する。そこで、ふと鼻をかすめるのは甘いお菓子の匂い

「ここの可愛いお家っていつも甘い良い匂いがするよね」

荷物を持ち直し、お礼を言いつつ、女はそう口にした。言われてみれば、この通りを通過する際にはいつも鼻腔は活発に働いていたように思える。

「きっと毎日、お菓子作りしてるんだよ!素敵だねぇ」

えへへと笑う彼女の言葉で、男は途端に甘味を食べたくなった。相変わらず脳を痺れさせる甘い香りが手伝って、帰社し次第、自分のデスクにある焼き菓子を食べてしまおうと変わらぬ表情で考えた。そうと決まれば、さっさと仕事を済ませてしまおう。彼は未だポヤポヤしている女に声を掛ける。

「行くぞ。」

次の目的地はお得意様、フランキッシュ夫人の住む中層ムロウドハウス!

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こちらエグリーズ配達運送。
早くて迅速スピーディ!
荷物のお届けはこちらまで。

そんなうたい文句を掲げるのは、鐘を鳴らす彼の職場だ。今日も一日、世話の焼ける妹をサポートしながら配達の仕事を着実にこなす。

「クランプス!次で今日は終わりだよ!」

がんばろーう!
腕を上げて笑う彼女に、走るなよと釘を刺して、クランプスは静かに笑った。

そこに確かな幸せを感じながら。


#


エグリーズ社配送車両の車体を飾るステッカーシールは、時期関係無くクリスマスをイメージしたデザインのものであった。その中にいくつかポインセチアのイラストが飾ってある。

クランプスは知らない。

赤、白、ピンク、等。様々な色のあるポインセチア。それらには各色ごとに花言葉が存在する事を。





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