●白日夢●

□夢色バス
1ページ/1ページ

やがて、小洒落たバスがやってきて、私達の前で軽快に停止した。

薄色のサングラス、ロングコートはあなたによく似合う。物腰柔らかく私の横に立つ姿に溜息が出そうだった。明るい髪が金に輝いてそっと揺れる。
私の目線の胸元で、何かがもぞもぞと動いた。白と茶色があなたの腕の中でこちらを向いて、くりくりした眼差しがあらわになる。
気付くとそれは私の腕に渡されていて、春風にぴくりと動く感触がふわふわと心地よかった。
あなたがずっと可愛がっていた犬だ。預かって欲しいと言う。見上げたら微笑みが返ってきた。
「…いつまで、ですか」
「いつまでだろうね」

そして何か、言われた気がしたがもしかすると、はぐらかされたのかもしれない。

バスの扉が開く。
ステップに足を掛けた背中を見送るつもりだったのか、今となってはわからない。私は自然とあなたの裾を引いた。
振り返った、瞳がキラリと光る。
「どうぞ」
両手を広げたあなたに吸い込まれるように、バスに乗り込んだ。

洒落ているのは内装も一緒だった。長椅子の真ん中に座るように言われる。ぼんやりした私に気付いたのか、先に座っていた黒髪の男性が少し右に寄ってくれた。
すぐに景色は動き出していた。あなたは私の右隣、窓際に腰掛ける。 しばらくの間何も言わずに外を眺めていた。その横顔と共に。

街並はくるくると回る。
人通りが増えた路地が見えてきた。
「あのへんにね…」
あなたのお店があるという。
つい最近オープンしたばかりのアンティークショップ。
「行ってみたいな」

それからの会話は何故だか弾んで、たくさんたくさん話した。
この街になかなか来れなかったことも、あの日のことも――

そういえば、
このバスは何処へ向かっているのだろう。

まぁ、いいか。
きっとまたはぐらかされるに決まっている。

乗ると決めたのは、私だ。



.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ