●白日夢●

□避難宣告
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明け方から降り出した雨は止む気配もなく、屋根を、ガラスを打ち続けていた。

何もせずに居たら、とっぷり夜も更けて、ただだらだらと伸びた髪の毛をいじってみる。


気がつくと、遮光カーテンの向こうがまっさらに、何もかも無くなっていた。


隣家も茂った木もあの学校もよく鳴く犬も消えている。
だだっ広い泥色が延々と続く、くねくねとした川は氾濫しながらこの部屋の足元まで迫っていた。

何もかも流されたのだ。

ゴウゴウとした水音を聞きながら、恐ろしさより可笑しさが勝ってもいた。


階段を昇る足音に振り返る。
知らない女が立っていた。
知らないはずなのに驚かない。何かおかしな言葉を僕に伝えた。

女は僕の右後ろを見つめて、会釈をした。
当然誰もいない。
不思議なことに僕はこの時、女は真実を知っていると確信し、初めて驚いたのだ。
しかし女が語り出そうとするのを何故か遮って、朝食を取りに部屋を後にする。

重要な、核心を前にして、僕は白いご飯を茶碗によそっていく。
お盆を手にしてそわそわと階段を駆け上がったら、女はもう消えていた。

ただ川の音と、スピーカーから流れるあの曲が部屋の隅々を満たしていた。

いつも肝心なことは何一つ残らない。


ドンドンドン、

激しく玄関が叩かれる。

とうとう来たのだと思った。
ここで冷や汗がやっと出てきた。何故さっき話を聞かなかったのだろう。

今より先の保障など何処にも無いのに。

唇を噛んだ。


混ざり合った音の洪水にまみれた僕は、変な体勢でベッドの上に居た。
右肩が痛くて目が覚めた。

午前2時、雨はまだ止まない。





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