●白日夢●

□時の終焉
1ページ/2ページ



私は駆けていた。

…早く、早く行かなくては……。
焦る気持ちとは裏腹に何度も足がもつれ、転びそうになるのを必死で堪えた。

どんよりとした灰色の空の重みを感じながら、長く続く石造りの歩道を進む。
太陽の光が届かないせいで、時間の感覚が分からない。今は昼なのか、夜なのか…それすらも曖昧だ。

ふと、横に連なり立っている街灯に目をやる。
灯りが燈っていないから、夜ではないだろう。もしかしたら、夜明け前かもしれない。

だからこんなに静かなのか。
そういえば…誰一人として、擦れ違う者はない。それどころか、人の気配が皆無なのだ。

私は急に違和感を覚えて立ち止まる。
そして周囲をぐるりと見渡した。

――黒い街灯、
フェンス越しに臨むコンクリートの建物、
何処まで続いているのか分からない、冷たいアスファルト――
生命が感じられない、灰色の街並。

此処は何処だ。何故こんな所に居る?

――私は…行かなければならない。

一体、何処へ?

――早く、早く行かなくては…。

何故急ぐ必要がある?
まるで、何かに追われているかのように……。

――追われている?

突然の暗い予感に、私は振り返る。

「………」

しかし、そこにはただ静寂があるのみだ。
私は僅かな安堵感を胸に仕舞い、再び走り出そうとした。
その時――

前方に、黒い塊が現れた。
不審に思いながらも私は、蠢く『それ』に近づく。
――そして分かった。
黒い塊に見えていたのは、群れを為す人々の姿。

いつしか私はその人の波に、飲み込まれていた。

表情のない人々は口々に何か言い合っていたが、私はそれを聞き取ることが出来ない。
押し寄せるざわめきに耐えられずに、人を掻き分けた。だが、思ったように前には進めない。

不意に、ざわめきが止んだ。
同時に人々は、まるで波紋を描くように私の周りから遠ざかる。
そして一斉に元来た方向へ、身体を向けた。
その行動の意味が何であるのか考える間もなく、つられてそちらを窺った。

――心なしか、先程より辺りが暗くなった気がする。
道の向こうには…いつの間に発生したのだろう。
深い霧が、立ち籠めていた。

朧なシルエットが浮かび、音もなく近づいて来る。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ