●恋詠小品●

□フールプルーフ
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「オレのこと、好きやろ?」


薄い顔。
さらに笑顔。
うすい存在。
だのに、自信満々。

視線だけを向けたら、すぐそこに顔があった。

「……(近い)」
見下ろされるのも癪だ。
何だか同じ立ち位置にいるのも釈然としない。
仕方ない。この薄い男よりずっと背が低い自分を恨もう。

小洒落たシャツ。
軽めの茶髪。

「な、好きやろ」

多分本気の馬鹿に違いない。

「好きではありません」

ざっくりと切り捨てる。至極簡単だ。
「またまた〜」
「好きじゃない」
ざくざく切り捨てる。
私は無表情。
ちぎっては投げちぎっては投げ……


「じゃ、アイツのことは好き?」
「す」

思わず振り返る。
やっぱり薄い顔がそこで笑っていた。
「……知らない」
無視して歩き出した。

馬鹿なくせに。

知ってるくせに。

「そこは否定せんの」

いつの間にか隣りを歩く。纏いつく香りが好きじゃない。




もしも、好きだといったら
どんな顔するんだろう


笑っちゃうくらいあなたに無関心だけど知ってることがある

いつも好きって聞いてくるあなただけど
私を好きだと言ったことは一度もない

ここで思わずその腕に寄り添うような馬鹿な女なら
私は幸せになれるのだろうか

うすい幸せ



「……無いな」
「へ?」

おばかさんは懲りずににこにこと付いて来るので、私はおかしくてちょっとだけ笑ってしまった。




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