●恋詠小品●

□ボタン
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ボタンが、取れそう

思わずじっと見つめていたらしい私の目線を追った、貴方がふ、と笑った。

まだ着慣れない風なスーツの真ん中のボタン。
付け直してあげる、そう言って制服のポケットからソーイングセットを取り出した。貴方はいそいそと上着を脱いで、腰掛けた私にそれを寄越す。
向かい側に座って空を見上げた貴方の白いシャツが何だか眩しい。慌てて受け取った上着に視線を落としたら、今度はまだ残る温かさに気がついてしまった。

きっとぎこちなく行き来する私の手元を見たり、風にもたれて時を過ごす貴方の様子が気配で伝わる。

ゆっくりと、もっとゆっくりと時間が流れてくれればいい。


そんなことを思った。


そして、私はあの時とは違うスーツの上着を抱えて冷たい椅子に腰掛けていた。

灰色の生地から視線を上げる。周りに並び座る人達は皆黒い服を着ていて、それは自分も同じだった。
向かい側の貴方は四角に収まって笑っている。


あれから6年経ったのだな、と息を吐いた私はあの頃と同じように、上着を抱きしめた。



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(07.02.23)

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