●天国玉●
□2・〜心の行方〜
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母が死んだのは、私が5歳の時だ。
残された写真のお陰でいつでも顔を思い出す事は出来るが、どうしても当時の記憶はもやがかかったように不鮮明だった。
人肌の温もりと耳に残る声色は、想像の産物と思えるほどに、いつもぼんやりと浮かんでは消えていった。
「ママ、死んじゃったの?」
そう言って泣きじゃくる子供をドラマや映画で観る度に、果たしてそんな感傷があったのかすら定かでないことが、僅かな切なさを浮遊させる。
煙る線香の匂い、黒と白の空間。
自分の家だけ切り離されて、非日常に放り出されたようだった。
叔母さんに抱かれながら、ただ人の往来を眺めていた。
「あゆみちゃんまだ5歳だって。かわいそうにねぇ」
そわそわとした。
言うまでもなく、ここに足りないものがあることに気づき始めていたのだ。
私は求めていた。
喉の渇きを覚え、水を欲するように。自然な渇望だった。
正体の解らない不安から逃れたくて、両の手をぎゅっと握り締める。
おかあさん――
ハッとした。
左手に何かがある。
恐る恐る開いた手の平が、途端に輝いた。
ビー玉だ――
いつどこで拾ったんだったか。
キラキラと時折七色よりも深く、透明な球体を私はまた手の内に収めた。
ずっと大切にするんだ。
不思議と安らいでいく心の中で、そう思った。
その後ビー玉を何処へやったのかはわからない。
そもそも存在すら忘れていたのだ。
今の今まで――