頂き物・捧げ物(ノベル)

□ワンダフル・イフ
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「わかってます、はいはい。で、先ほどのお話なんですけれど」
「…我が異端審問局に来い!女狐のもとでは、実力を発揮できん!」
「勝手に決めないでくださいよ。カテリーナさんを悪く言うのはやめてください…ペテロさん、あのね…」
やはり体育会系の熱い、否、熱すぎる彼の信仰心に基づく言葉にアベルは丁寧に、しかし、はっきりとした反論を返す。
「某は…そなたをかっておる。共に来い…」
本気で腕を差し出され、苦笑する。
真剣な瞳を持つ、異端審問局の局長がひどく真っ直ぐであることをアベルも知っていた。
だからこそ、正直に。
はぐらかすことを、やめてしまおうと思えた。
「いいえ、参りません。」
「っ、何ゆえ…!」
「…私は、ヒトではありません。純粋な聖職者でもありません。神のための戦など、私には…」
私がナニモノであるかは、感づいているのでしょう、と湖水のように静かな瞳を細めて笑う。
かつて
世界の敵と呼ばれた。
許されないほどの人間を屠った。
神を崇める資格すらない。
「それほどの力を持ちながら…そんなことが許されると」
「…私は神のためでなく、人のために戦いたく、思っていますから」
「…詭弁ですね。ナイトロード神父。あなたの仕事も、死人が出ることが日常でしょう。それなのに、スフォルツァ枢機卿に与して我らには、与しないというのですか。」
「そうですね。そのとおりでしょう。ああ、もちろん、必要があれば…異端審問局とも協力させていただきます。けれど、やはり信念の違いは如実に敵対関係を生み出すでしょう。所詮は、天敵のままでしょうね」
穏やかに言い切られた言葉に、二人が息をとめた。
「けれど、私はあなた方が嫌いでは…」
「そんな言い方をしてはだめよアベル」
「そうとも」
「っ…!」
「そんな言い方では甘いわ。この人たちが希望をもってしまうじゃない」
「いけない子だねェ」
好き勝手なことをいいながら再び舞台に上がってきたこの二人。
先ほどたしかに、トレスに葬られた
否、足止めされたはずなのに!!
「さてと、あなたたち、私の可愛いアベルに手を出そうなんて一万年早いでしょう」
にこり、と褐色の女神が微笑めば隣の金髪の神が応じて、微笑む。
「…君たちの味方になるわけがないじゃないか。この子は僕の弟。薔薇十字騎士団に入るのが妥当だろう。ねえアイザック」
「…はい、我が君(マイン・ヘル)」
「げっ、オルデン…!」
アベルが怯える、しかも蛇蝎のように厭っている“団体様ご一行”がカインの真後ろに整列していた。
「…アベルさま、今日こそ我らのもとへおいでくださいますね。我々は心から歓迎いたします。ようこそ」
有能な執事を思わせる男が、恭しく頭を下げる。
「ちょ、なんで断定形を用いてるんですか、誰がいったいそんなことをいったんですか?ねえ!?」
「さ、お連れしよう」
一声、ケンプファーが言うと、傀儡の王メルキオールと、人形遣いディートリッヒが進み出る。
普段から仲の悪い二人が、今回に限って協力関係にあるのを見て取ったアベルは顔を引きつらせる。
絶対、ろくなことにならない、と。
「手間、かけさせないでよ神父様」
「いっ」
体の自由が利かなくなった瞬間、目の前の女神が腕をふるう。
「あ。」
「大丈夫よアベル。…私が守ってあげるから」
完全に背に庇われるカタチになった青年と、片腕を掲げて立ちはだかる、赤い髪に褐色の肌。
「褐色の、聖女…」
「ナイア・サンクタ…?」
「教皇庁の関係者なら私の味方よね?」
ふふふ、と微笑みリリスは手招きをする。
「アベルを守ってくださいね」
なんともいえないオーラを纏って、微笑まれたペテロは思わず、武器をとる。
「…ペ、ペテロさん!?」
「魔物に囚われた姫君を助けるなんてまさに騎士の役目だね」
「姫君…って…」
「僕のお姫様、今助け出してみせ…」
ごちん。
ふらーり、正面にむかって、倒れこむ金髪の神。
「…え、カイン!?」
「マイン・ヘルー!?」
オルデンのメンバーがマイン・ヘルコールを始める。
「大丈夫ですか我が君!」
「我が君!!」
「…これはなんの騒ぎだね、アベル」
「あ、教授…!それにユーグさんも!!」
助けが来た!と、目を輝かせるアベル。
しかし…
「…お取り込み中…かね。浮気でもバレたのかねアベル君」
「違う!違います!!助けてくださいよー!!」
「…ふむ、そうだね…君たち、あまりに紳士的でないよ。紳士はそう醜い争いはしないものだが。そもそも」
「…そもそも」
「彼は、もっと紳士的な男性が好みだと思うよ」
「…男性限定…?」
「そう、たとえば、私のような」
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