頂き物・捧げ物(ノベル)

□ワンダフル・イフ
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「…強い女だね、彼女は」
「カテリーナさんですか?怒ったら怖いんですよ〜!!」
「いや、そういうことじゃなくて、アベル兄さん…はあ…まあいいや、兄さんのおかげでツテも出来たことだし…感謝してるよ、ありがと」
「…セス…」
「さてと、ボクは一旦イオンのところへ戻るけど兄さんも来る?会うのは久しぶりだよね?」
「そうですねぇ…懐かしいですし、一緒に…」
「お待ちください、ナイトロード神父」
「ひういい!?」
真後ろからかかった冷ややかな女の声にアベルが叫ぶ。
「…失礼、それほど驚かれるとは思っていませんでした。」
シスター服が似合うような似合わないような、あまりに整った顔の長身のシスターが正面に回りこんだ。
「…先日のお返事をいただきに参りました」
「ぱ…パウラさん…」
「如何でしょうか、神父様」
言外に、厄介な人間と鉢合わせたという表情で迎えたアベルはパウラとの間に距離を取りながら言う。
「いええ、その、なんと申しますかー…私はあまり、異端審問に興味はなくて…そのー、今の職場も気に入っておりますのでー」
「いただきたいお返事はただ一言なのですが。」
「なに?どうしたの兄さん…?」
多少、面白がるようなセスの言葉に反応したのはアベルではなく、シスターのほうであった。
「妹さんがいらっしゃるというのは初耳でしたが…あなたからもナイトロード神父を説得していただけませんか。…我ら異端審問局へ、来ていただけるように」
「は?…異端審問というと、確かラドゥが操っていた航空戦艦の持ち主サンだったっけ?…いいんじゃない?仲良くしなよ兄さん。」
「んなっ、仲良くって…!?」
「イオンから聞いてるよ、そこの局長さんと兄さんが仲良しだって。」
「ち、ちょ、え、嘘、そんな…」
「そうですね。その通りです」
「ええええ!?ちょっ、さらりと嘘つかないでくださいよ!!セスも!そんなことまで報告させてるのか!?私…っその、あの…」
「冗談に決まってるじゃないか…なに赤くなってんの兄さん…ちょ、まさか…」
「……ですからお誘い申し上げてるんですが。」
淡々と、死の淑女が言い放つが妹の驚嘆はそれで余計に大きくなった。
「ですからそんなことは…っ!ただ、私は…」
「私は単純に戦力増強目的ですが。…ええ、ほんの一ミクロン程度に“ブラザーアンデレが私と局長の子だ”という噂を消したいと思っていますが。」
「8:2の割合でそれでしょう…私は、ただ…腹筋が…」
「ふ…?」
「腹筋がステキすぎるんですよねあの人!!」
親指をぐっと突き出して夢見る長身の男は、正直非常に気持ちが悪かった。
「…に、兄さん…そんなに腹筋に憧れを…」
「…そ、そうですか…」
「ま。あの人以上に私の仕事とバッティングするうえに、よく怪我するから別に異端審問局に、はいらなくても全然おっけーで…」
「なーいーとろおおおどおおおっ」
「きゃっ」
若干オトメな叫びをあげて、セスが道を譲ると後ろからどかどかと大股な男が歩み寄って来る。
「ナイトロードっ、貴様…なぜ素直にうんと言ってくれん!」
「ええええー…だって…」
ぎろり、と至近距離から凄まれてもアベルはさっきよりは容易に答えを返すことができる。
アベルにとっては、副局長であるパウラのほうが余程怖い対象であった。
「…我々とともに神のために戦いたくないというのか!?人類の敵と戦いたくないのかー!?」
体育会系の大きな叫び声に、苦笑いで応じて、お茶を濁す方法を考え始めるアベル。
「…んー…」
「ちょっと待ってよ、人類の敵って」
「せ、セス…っ」
「恐ろしい吸血鬼の魔の手から人間を守るのだ!!」
相手がメトセラを統べる女帝とは知らずに、堂々とそういったペテロに、セスの好戦的な視線が突き刺さる。
「へえ、それはご大層なお仕事だよね」
「む?そなた、職員ならばシスター服を着用せ……子どもか?」
「…すみません、私の妹なんですー、ね、セス〜ご挨拶してねー」
「…兄さん、下がってて」
微かな本気を漂わせた妹に慌てるが、ペテロはまるで空気をよまず続けた。
「吸血鬼とは人間の血を奪う、恐ろしいバケモノ。しかし、まああの若造は、なかなか見込みのあるやつだ。」
「それって、イオンのこと?」
「おお、そうだ。イオンといったな…そなた、何者だ?もしや…吸血鬼、いや日光を浴びても…」
「妹、ですよー。セス、先に戻って。」
「んーでも…」
言い募る妹に、さらに言葉を重ねて縋るように言うアベル。
「先に戻って、ここは私がなんとかしますからっ、ね!?」
「…うん、じゃあ。」
あまりにも必死な兄に気おされて頷く。
ぺこっと、パウラに向けて頭を軽く下げてセスは駆け足でかえっていった。
「はあ…すみませんね。」
若干ほっとしたかのようなアベルに、生真面目な男がいたって普通の感想を洩らす。
「否、そなたとは似ても似つかぬ愛らしい妹ではないか。」
「アンデレのように目つきも悪くありませんしね」
「そうだな」
二人でうんうん頷きあう、局長と副局長にアベルがすかさずツッコミをいれた。
「…その辺が夫婦だって言われるんじゃないですかね」
「「断じて」」
息を揃えて、凄まれてアベルは内心“夫婦じゃないか”と突っ込んだ。
重ねて口に出せば、激昂した局長にスクリーマーでフルスイングを食らうか。
あるいは、殺人体術に関して右に出るもののいない副局長に淡々と殴り飛ばされるに決まっている。
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