頂き物・捧げ物(ノベル)

□ワンダフル・イフ
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「ようこそ、ツァラ・メトセルートの女皇(アウグスタ)ヴラディカ」
珍しく客人を立って出迎えていたカテリーナにアベルが軽く、目を見開く。
「はじめまして、カテリーナ・スフォルツァ枢機卿。」
「…カテリーナさん起き上がって大丈夫なんですか…?」
「ええ、とても調子が良くてね…膠原病なんて治ってしまったようね」
「一時的に、完全に治癒していると思うよ…ただ、今までに失った体力はまだ戻ってないから十分養生したほうがいい。座って、ボクのことはお構いなく」
「ありがとう。出来た妹さんね、アベル、あなたの妹さんなのに」
膨らませた衣服を巧く扱って、腰を下ろしたカテリーナが赤い唇を綻ばせて笑う。
「そうですか〜?」
妹を褒められて、嬉しそうなアベルだがそこでふとカテリーナの含みに気づいた。
「あれ?なのにって何ですかー!?」
「そのままの意味です。…ところで、アウグスタ・ヴラディカ…あなたの知っていることを教えていただけるかしら?」
「もちろん…といっても、あんまり掴めてないんだけどねえ…。今判っていることは怪我人、病人の治癒。それに、死人の復活。この二点くらいだよ、もちろんボクの子どもたちは長命だけど、死ぬことは死ぬからね…ボクが直に見ただけでも何十人か、愛児たちの島から帰ってきてるんだ。」
「…しかし、単純に考えて死人が全員復活すればこの地上はいまにも人で埋め尽くされてしまうでしょう?」
「問題はそこなんだよね…死んだ時期の問題かと思えばリリスも…ボクらと同じ頃に生まれて、火星から戻ってきたリリスまで甦ってるしね…ま、今は原因もだけど、対策考えなきゃ」
もとは科学者だったセスは純粋な探究心とは、別の視点をこの千年で身につけていた。
以前の彼女なら、どんな状況だったとしても真実の探求を一番に考えていたが女皇として生きてきたおかげか、対策のほうにも目を向けている。
「これまで敵同士だったものがまた戦うことになる…かも」
「…メトセラと人類の戦いは熾烈を極めるでしょう…そんなことは、避けねば。協力していただけるわね?」
「…全面的に頼りにされても困るけど。人類のうちの何割かが、教会の言うことをきかないのと同じで…ボクの目の届かないところで何人か、逆らってくるかも…」
「…」
何人か、と口にしたセスにカテリーナは苦笑いを浮かべた。
所詮、何人か、しかこの女皇に逆らうことはないのだ。
余程人間より統率がとれている。
「分かっています。私も兄と協力して出来うる限りの対応をとりましょう」
「それ以降のことはまたあとででもいいかな、とにかく、貴女と直に話すことが出来て良かった。これはとても大きな収穫だよ」
「…私も、そう思います。…時間が許せば今後のことをもっと貴女と話したいのに…ふふ、ともかく目の前の仕事を片付けましょう」
「そうだね」
二人の女王が、頷きあい史上初の対面は終わった。
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