名をくれた君を想う

□第五章
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「うわ、止めてよ。
今日は早くお姉さんに会いたいんだ。」
「良いではないか。姫もじきに来るであろう。」
「でも・・・・。」

頻繁に彼女に会いに来るため、夏目もそろそろこの森の妖達と顔見知りになってきた。
ただ、毎回のようにちょっかいを掛けられるのには少し困っていた。

「私も会いたかったよ?貴志。」
「うわああっ!」
「・・・そこまで驚くのは少し失礼では?」

突然出てきた2人に驚いた貴志に小春が不愉快そうに言った。

「ははは、まあまあ。
それで?貴志。
なんで私に早く会いたかったの?」

「あ、そうだった!
お姉さんに早く伝えたいと思って!
お姉さん、前に名前は無いって言ってたでしょう?」

「?・・・ああ、あのときか。
うん。私に名前は無いよ。」
「この間読んだ本にね、女の人が出てきたんだけど、その人の雰囲気がすごくお姉さんに似てたんだ。」

妖達も小春も姫も、なんとなく夏目が言いたいことがわかった。

「その女の人の名前『咲弥』って言うんだけど………。」

「お姉さんの名前に、どう、かな?」
「おお!!咲弥様か!良いではありませんか!」

夏目がおずおずと言ったとたんに妖達が騒ぎ立てる。

「咲弥か………。」
「うん。ダメ…………?」

呟いた彼女に夏目が聞くと、騒いでいた妖達も静まりかえって様子をうかがった。

「良い名前だね。ありがとう。」
「うん!」

嬉しそうな夏目に、花の姫ーいや、咲弥も思わず笑みをこぼした。

「お前たちも、今日から私のことは咲弥と呼べ!」
「「「もちろんです咲弥様!!!」」」




初めて名を得た
私だけの名前 私のための名前
今まで名などどうでもいいと思っていたのに
得たとたんに、名を失うのが怖くなった
名を呼ばれて嬉しいと、初めて思った

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