テニスの王子様

□瞳を開く時
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「君に会えてよかった。」





別れ際の職員室の前で、そう告げられた。
悲しくない訳じゃなかった。けど
「ありがとうございます。」
その時はただそれしか言えなかった。





先輩のいない毎日はとてつもなく早く感じられ、それなりに忙しいせいで泣くことも悲しみに浸ることすら忘れていた。





「…あ……」




学校から家へ帰る手前、先輩がよく話していた花が道端に咲いているのに目にとまった。
名前はたしか…


「……なんだっけ…」



忘れちゃったな…。
先輩がいた頃ははっきりと覚えていたはずなのに、今はどうしても思い出す事ができない。

忘れてしまった事実を認めてしまうと、急に今までの寂しさや悲しさがどっと押し寄せてきた。



「……っ………」



私、こんなに悲しかったんだ。
忘れてた訳じゃない、だって忘れられる訳ないんだから。知らないうちに我慢してただけかもしれない。


先輩との記憶が、微かに少しずつ消えていくようだった。


まだ先輩には伝えられてないけど
私は先輩ことが本当に



「何を泣いているんだい?」



「……!」




振り向かなくてもわかるその声。
暖かくて優しい大好きな先輩の声だ。
身体は自然に先輩へ向かっていて
飛び込むように抱き着いた。



「どうしたの?」


「せん、ぱい、寂しかったですっ、う、私すごく、先輩に、会いたかった・・・!」



ポンポンとなだめるように先輩が背中を軽く叩いてくれるのが
とても心地よくて懐かしくて涙が止まらなかった。



「先輩・・・わた、し」



言いかけた時だった、ぎゅっと抱きしめられて
言葉がとぎれた。


「僕から言わせて?」


「え?・・・」


「寂しい想いさせてごめんね。あの時言い忘れてた言葉があるんだ。聞いてほしい。」


先輩は真剣な顔だった
開いた目は蒼く強い眼差しだった。



「君の事が好きなんだ。だから・・・そばにいてほしい。」


「先輩それって・・」


「ああ、ちょっと回りくどい言い方だったかな、じゃあ率直に言うよ。僕と付き合ってくれるかい?」



「・・・はいっ、喜んで・・!」





抱きしめ会う私達の上から
フワリと雪が降り出した。






END

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