※R指定注意


※天の助擬人化










Side:T





目覚めたら俺は床に転がっていた。どうやら寝ていたベッドから落ちたみたいだ。その衝撃で目が覚めたのかもしれない。共にベッドから滑り落ちたのだろう掛け布団が、半分俺の体に被さっていた。




起き上がり、眠気で霞む目を擦りながら掛け時計に目をやる。窓から入る月明かりに照らされた時針は、深夜二時を少し回った時刻を差していた。俺がベッドに入ったのは十一時ぐらい。ということは、まだ三時間ぐらいしか時間は経っていないということだ。





「………あれ」





寝直そうと思いベッドに這い上がって、ふと隣のベッドに目をやった。しかしそのベッドは空で、誰も眠ってはいなかった。今日の部屋割りは二人一部屋で、俺は久しぶりにヘッポコ丸と同室になった。ベッドに入った時、ヘッポコ丸も一緒に自分のベッドに入っていたはずなのに…。


トイレか? そう思って備え付けの手洗い場に目をやるが、明かりは灯っていない。ならばどこに行ったのか。暫く逡巡していたが、あぁそういえば…と一つ思い当たることがあった。修行だ。ヘッポコ丸は時折深夜に一人で修行を積んでいるって言ってたな確か(前は毎日やってたらしいんだけど、それは体を壊すからとソフトンに叱られてからは不定期にするようにしたらしい)。






多分今夜は修行の日なんだろう。わざわざ俺が寝付いてから出て行ったのか。気を遣わせたのかなーと、ちょっと申し訳なくなった。確かにベッドに入る直前まで、俺の話に巻き込んじゃってたような気がする。優しいヘッポコ丸のことだから、俺の話を途切れさせるのが申し訳ないと思ったんだろう。久々に同室になれたから、俺テンション上がってたもんなぁ。




「……見に行こっかなぁ」





そんなことを考えていたら、すっかり眠気が飛んじゃいましたよ俺ってば。このまま一人で起きてるのは寂しいから、ヘッポコ丸の修行風景を見に行くことにした。適当にボーボボとか首領パッチとかを起こして相手してもらうことも考えたけど、無理に起こしたりしたら俺の命が永遠におやすみさせられかねないので思い止まった。




大丈夫、邪魔なんかしない。ちょっと遠くから眺めて、一息ついたとこで近付いてって「お疲れ」って言ってやるだけだ。そうだ、夜食でも持ってってやろうかな。こんな深夜に体動かしてんだから腹減ってるだろうし。確か入り口前に軽食売ってる自販機があったはず。そこでおにぎりかなんか買って、持ってってやろう。







思い立ったら善は急げだ。俺は這い上がったばかりのベッドを、無駄に勢い付けて飛び降りた。…その時ベッドシーツに足を取られて顔面から床にダイブしちまったのは、誰にも言えない秘密だ。

















自販機でおにぎりと、あと一緒にスポーツドリンクも買って、俺はいそいそと近くの森に入った。ここ以外に修行する場所なんか思い付かないし、何よりここより良い修行場所なんてこの辺には無いからだ。





森に入ると、一気に視界が闇に包まれた。当たり前だ、森の中に外灯は設置されてない。目の前すらも見えない暗闇をおっかなびっくり進んでいく。進みながら、そういえば森に入ったはいいけど、ヘッポコ丸がどの辺りで修行してるのか目星がついていなかったことに思い当たった。このまま闇雲に進むしかないか…と溜め息をついた時、視界の端を黄金色の閃光が掠めた。



その方角に顔を向けると、また黄金色の閃光が見えた。俺はすぐに、それがヘッポコ丸のオナラ真拳であることに気が付いた。そうだ、アイツが磨いてるのは純粋な体術だけじゃない。真拳の質も同様に向上させるために努力しているんだった。





俺はその閃光を頼りに茂みを掻き分けてその場所を目指した。そうしてしばらく進むと、少し開けた場所が見えてきた。その場所だけ木が丸く円を描くように植わっていて、ポッカリと覗ける空から明るい月光が地を照らしていた。








そこに、ヘッポコ丸は居た。明るい地面に小石で小さな円を作って、丸く植わっている木の枝を順々に飛び移りながら、その円の中に技を的確に打ち込む特訓をしているようだった。命中率を上げようとしてのことだろう。けど、飛び移りながらだと上手く狙いが定まらないのか、半分は円を外れた場所に凹みを作っていた。円の中にも円の外の地面にも、凹みは数多く存在していた。









ヘッポコ丸はどうやら俺には気付いていないらしい。俺が未だ闇に包まれた茂みに潜んだままなのもあるだろうし、すごく集中しているのも理由の一つだろう。脇目も振らずにひたすらに技を打ち続けているヘッポコ丸の気迫は、距離を置いている俺にも伝わってくるぐらいだ。





「はあぁ…」





思わず感心しちまって意味の分からない溜め息が漏れる。ヘッポコ丸が強くなることを切望して、尽力を尽くしているのは知っていたけど、こうして修行風景を見ていると生半可な覚悟で強くなろうとしているんじゃないんだと思い知らされる。誰よりも努力家で、勉強熱心で、仲間思いなヘッポコ丸。そのストイックな修行風景は、普段ふざけてばかりな自分が如何に適当なのかを痛感するには充分だった。








俺じゃあ修行相手には到底なれないしなぁ…絶対途中で集中力が切れて、ふざけちまう。真面目なヘッポコ丸の邪魔にしかなれない。いくら相方だ、恋人だと言っても、これじゃあ全然釣り合わない――そんな感じで、俺のテンションがだだ下がりになっていた時だった。









相も変わらず木の枝を飛び移りながら技を放っていたヘッポコ丸。その内の一本が、ヘッポコ丸が飛び乗った瞬間にバキッと音を立ててへし折れた。まさかのアクシデントに、ヘッポコ丸の肢体は空中で完全にバランスを崩してしまった。そのまま――落下。





「あっ…!」
「ヘッポコ丸!」





なりふり構ってられなかった。おにぎりとドリンクが入った袋を投げ捨てて、俺は全速力で茂みから飛び出した。地面に落下してしまう前に、受け止めてやろうと思ったんだ。幸い距離はそんなに離れていない。俺の脚力なら余裕だぜ! …とか思ってたんだけど。





「ぶへっ!!」






飛び出して三歩しか走ってないのに、俺は小石に躓いて派手にすっころんだ。思いきり顔面から滑り込んじまって、砂利に顔面が擦れて物凄く痛い。ヤバい、これ鼻血出たかもしんない。






そして痛みに耐えながら顔を上げた先で、ヘッポコ丸が横たわった状態で俺を見ていたのだった。表情が痛みに歪んでいるところを見ると、強かに体を地に打ち付けてしまったらしい。お互い、なんとも無様な姿を晒した状態での対面になってしまった。







「て、天の助…?」
「うわわわヘッポコ丸大丈夫か!?」






幸い鼻血なんか出てなかった俺はささっと身を起こしてヘッポコ丸に駆け寄った。起き上がるヘッポコ丸の背を支えてやると、ヘッポコ丸は苦笑混じりに言った。






「ありがと。でも、俺よりもお前の方が大丈夫か? 顔から滑り込んでたじゃんか」
「いやいやいやどう考えても俺よりヘッポコ丸だろ! お前自分が木から落ちたの分かってる!? 分かってるよな!?」






石に躓いて転ぶのと木から落下するのとでは、危険度が大分違うような気がするのは俺だけだろうか。…いや、多分誰に聞いても俺と同じこと思うだろう。ともすれば、誰もが転んだ俺を無視してヘッポコ丸に駆け寄っていきそうだ。



それなのに、ヘッポコ丸が心配するのは俺のことだ。自分を蔑ろにして、俺のことを気にしてくれる。その優しさは確かに嬉しいし、ヘッポコ丸の長所であるとも言える。でも、事が事なだけに、今はその優しさを俺なんかに向けてる場合じゃないだろと言いたくなっちまう。





「怪我とかしてないか? 痛むとことか!」
「別に、無いから大丈…い、つっ…」
「ヘッポコ丸!?」






立ち上がろうとして足を動かした時、ヘッポコ丸が苦痛に顔を歪めて呻いた。見ると、剥き出しの足首に痛々しい擦過傷が出来ていた。いや、擦過傷というより切り傷に近いか。きっと枝を踏み抜いた時に、折れて尖った部分に接触してしまったんだろう。いくつもの筋になって刻まれている傷からは、タラリと赤い血が溢れていた。









怪我してるじゃん!なんで隠そうとしたんだよ! 得意の強がりか!? 今いらねぇよ!? 今一番不必要なもんだぞ!?






「怪我してるなら最初から言えって!」
「や、別に、大した怪我じゃないし…」
「大した怪我だから! 楽観視ダメ! 絶対!」






治療第一! 説教は後でやればいい! とにかくまずは消毒! 消毒しないと! 黴菌入っちゃう! 変な黴菌入り込んじゃう!







でも、ここには治療する道具なんか無い。だから宿に戻らなきゃならない。けど、俺はここが宿からどれくらい離れた場所なのか全然分からなかった。ただただ闇雲に歩いてたから、時間の経過なんて全く意識していなかった。というか、どっちから来たのかすら俺は既に分からない。うわぁ、俺めっちゃ役立たずじゃん…。





オロオロと狼狽える俺とは対照的に、ヘッポコ丸は至って冷静だった。木を支えになんとか立ち上がったヘッポコ丸は、「天の助」と俺を呼んだ。




「この近くに川があるんだ。そっちの方が宿より近い。悪いけど、肩貸してくれる?」
「え、川なんかあんの? よしよしじゃあさっさと行くぞ! 肩だな? 待ってろ今千切るから!」
「なんでだよ! 掴まらせてって意味に決まってんだろ!」
「ジョークだよジョーク」





肩にヘッポコ丸の腕を回し、腰を支えて立ち上がらせる。歩けない程では無いんだろうけど、体重を掛けるとやっぱり痛むらしい。足を一歩踏み出す度に血がじんわりと溢れ、服や靴を汚している。





こりゃあ結構深いのかもしんないな。早いとこ川に行って傷口を洗ってやろう。それから宿に戻ってちゃんと消毒して、ガーゼ貼ってやれば大丈夫だろ。枝が傷口に刺さってなきゃいいけど…月明かりの下じゃ、そんな細かい所までは見えないのがもどかしい。もし傷口に入り込んでたらどうしよう…そうなってたら、傷口に指突っ込んで抉り出し……うあああ嫌なこと想像しちまったああああ。





頭を過ぎったグロ映像をぶんぶんとなぎ払い、俺はなるべくヘッポコ丸が足に体重を掛けないように気を付けながら、ヘッポコ丸のナビのもと、川を目指した。













負傷したヘッポコ丸を支えながらの移動だったから、川に着くまで結構時間が掛かってしまった。




真っ暗闇な森の中をおっかなびっくり(おっかなびっくりだったのは俺だけだったけど)進んでいくと、川が確かにあった。月光に照らされてキラキラと輝く水はとても澄んでて、昼間に来れば泳ぐ魚も簡単に視認出来そうだった。







川辺までヘッポコ丸を連れて行って座らせる。ヘッポコ丸は自分で靴やらなんやらを脱いでズボンを捲り上げ、傷付いた足を水に浸けた。傷に染みたのか少し顔をしかめたけど、ちょっと息を詰めただけで何も言わなかった。綺麗な水が、僅かに錆色に染まってそのまま流れていった。





「大丈夫か?」
「うん。ありがとな、天の助」
「お礼はチューでいいぞ?」
「バーカ」





おどけた風に言ったら吹き出された。ちょっと本気も混じってたのになー…残念。




ヘッポコ丸の隣に座り、俺もせっせと靴とか脱いで川に足を浸けた。途端に肌を包む水の冷たさに少し身震いする。やっぱり森の中ってなると、水の冷たさも都会とは比べ物にならないらしい。




「つめてー」
「明日、ここで水遊びでもしようぜ。首領パッチとか誘ってさ」
「おー! いいなそれ! …あれ、でも昼には出発するんじゃなかったか?」
「…そういえばそうだったな」





忘れてた。そう呟いて、ヘッポコ丸はそのまま後ろにバッタリ倒れた。俺もそれに倣ってバッタリ。見上げた先、夜空には、たくさんの星が散りばめられていた。星屑の海…って感じ。まさに絶景、の一言に尽きる。





「…すげー星だなー」
「そうだな。綺麗…」
「たまには良いもんだな、夜中に抜け出すのも。ヘッポコ丸はいつも、修行の合間とか星観てんの?」
「うん。休憩する時とかは観るかな。修行してる間は、そんな余裕無いし」
「スッゴい集中してやってたもんな。そらそんな暇ねぇか」
「…そういえばさ、天の助」






名を呼ばれ、ヘッポコ丸の方を見ると、真紅の瞳がジッとこっちを見ていた。月の光に照らされて、日中よりも深みを増した紅は、どことなく妖艶に見えた。







ドクリ…と、心臓が跳ねる。まずいまずい、ちょっと欲情してきちゃった。深夜だから、そんな気になりやすいんだ。…うん、絶対そうだ…。





「なんであんなとこに居たんだ? お前、寝てたよな?」
「あ、あぁ…うん、ちょっと、目、覚めてさ…そしたらヘッポコ丸居ないし…探しに来たんだよ」
「そうなんだ。…心配、させちゃった?」
「なんか寝れなくなっちゃったから、なんとなく探しに来ただけだよ。夜食持ってな」






飛び出した時に放り投げたおにぎりとスポーツドリンクは、途中で思い出してちゃんと回収しましたよ。俺ってばしっかりしてるねホント。起き上がり、側に置いといた袋を手繰り寄せて、中に入ってるおにぎりとペットボトルを手渡す。ヘッポコ丸は起き上がってそれを受け取った。










二人でもそもそとおにぎりを頬張りながら、天体観測に身を投じる。星座なんてこれっぽっちも分からないので、星の美しさだけ余すことなく堪能する。雲一つ無い夜空に散らばる星々は、それぞれがそれぞれの輝きを誇っている。よく目を凝らして見れば、星一つ一つの色合いが微妙に違うことも分かった。流れ星の一つでも流れていそうなものだが、どれだけ星を眺めていても、流れ星は俺達の視界を横切っちゃくれなかった。







浸けたままの足が気持ちいい。森の中特有の涼しさと足全体を覆う水の冷たさ、吹き抜けていく風の心地よさに、眠気が襲ってくる。欠伸を一つ零すと、ヘッポコ丸がクスクス笑った。





「眠い?」
「流石になー…ヘッポコ丸は?」
「俺もちょっと、ね。そろそろ帰らなきゃ」
「無理…絶対俺歩いてる途中で寝る…」






重くなる瞼をゴシゴシと擦り、眠気を飛ばそうと試みる。しかし意味なんて無かったから、川の水でバシャバシャと顔を洗ってみた。すると効果覿面、眠気はあっという間に吹っ飛んだ。冷水って偉大だな。…なんか、顔だけじゃなくて体まで冷えた気するけど。



懐から取り出したぬのハンカチで顔を拭いて、さぁて帰るか…とヘッポコ丸を見やって――息を飲んだ。












ヘッポコ丸は、また星空を見上げていた。その横顔が、ひどく物寂しそうに見えて…儚げに映って。



妙な色気を醸し出しているように思えて…ならなかった。







「? どうした、てん――」







見つめられているのに気付いたんだろう、ヘッポコ丸が俺の方に向き直り、口を開いた。けど、ヘッポコ丸の言葉は最後まで続かなかった。俺が、ヘッポコ丸の唇を塞いでしまったから。





啄むような軽いキスを繰り返して、唇を開くようにと舌でノックする。拒否することなくおずおずと開いた隙間に舌を差し入れ、好き勝手に掻き乱してやると、ヘッポコ丸は鼻についた声を上げて俺の背中にしがみついてきた。口内はほんのりスポーツドリンクの味がした。なんとも色気のないキスだな、と思いながら、それでもキスを止めなかった。





「ふっ…ぅ、あ…んん…」






唾液の混ざる音が、この静かな川辺ではなんとも場違いな感じだ。拙いながらも応えるように自分からも舌を絡めてきてたヘッポコ丸だったが、流石に息が苦しくなってきたのか、俺の胸をとんとんと弱々しく叩いてきた。窒息されちゃあ困るんで、おとなしく離れてやる。二人の間を繋いでいた唾液の糸は、月光に反射してキラキラしていた。




荒い呼吸を繰り返しているヘッポコ丸を、俺はゆっくりと押し倒す。そのまま服の隙間から手を差し入れ、汗をかいたためにしっとりとしている肌を撫でた。その手を、困惑した風にヘッポコ丸が掴む。





「あっ…天の助…ここ、で?」
「ごめん、スイッチ、入っちゃった。…いいか?」






少しだけ熱を持ち始めてる下半身をヘッポコ丸の下半身に押し付けて、問い掛ける。それだけで充分読み取ってくれたのか、ヘッポコ丸は顔を赤くしながらも頷いてくれた。俺は「ありがと」と呟いて、もう一つ、キスを落とした。





















Side:H





ケガをした足に例のハンカチを巻き付けられたのは、まだ充分な治療を施していない傷口が直接地面に接触しないよう保護するためだろう。川の水で傷口を洗っただけだから、有り難いの一言に尽きるけど…気にするぐらいだったらここで盛らなきゃ良いのに…とか、思ってしまう。





外でこういった行為に及ぶことを『青姦』って言うことを、俺が知ったのはつい最近のこと。教唆してきたのは勿論天の助だ。俺達は滅多に外でこんなことしないけど、天の助としては、外だろうがなんだろうが、俺のことを抱きたくなったら抱いてしまいたいらしい。それを聞いた時は恥ずかしさのあまり天の助を殴ってしまったが…そんなことを考えていたと知ってしまうと、求められてしまったら…どうしても、拒めなくなってしまう。



…まぁ、あんな熱っぽい目で見つめられちゃったら、断る気も削がれるんだけど。






「ひっ! うぁっ、ま…って、てばぁ…!」
「いやいや、無理だっ、て」
「や、あっ!!」





四つん這いの姿勢を強いられ、俺は後ろから容赦なく、天の助に貫かれていた。足首に負担掛けなくていいだろ、なんて天の助は嘯いてたが、こっちとしては足への負担諸々より、挿入れられた際の俺への負担に配慮してほしかった(というか、足首は大丈夫でも膝が痛い)。









男同士でこういった行為に及ぶ時、この体位の方がお互いに楽だというのは、知ってる。だが、ここで言う『楽』は、結合を深めるのが容易だという意味で使われる。臀部を頭よりも上に上げているために、挿入の際、重力に従って押し入れれば、正常位に比べて容易く最後まで挿入出来る。だから受け入れる側も、根元まで簡単に飲み込めていってしまうというわけだ(自分で言ってて恥ずかしくなってきた…)。




深い結合が齎す快楽は、俺の理性をあっさりとこそぎ落としていく。ここは空気の冷えた川辺である筈なのに、散々の愛撫によって高められた熱で体は火照り、微塵も涼しさを感じない。涼風が吹いたとしても、火照った体は冷める前により一層の熱を纏うためだった。







天の助が動く度に上がる、自分のものだとは信じたくない嬌声。抑えようと唇を噛もうとするが、すっかり弛緩した唇にはこれっぽっちも力が入らず、ただ単音を弾くための役割しか果たさなかった。我慢しようとする意思はあるのに、その意思とは裏腹に何も堪えられず、喘ぎ声を上げるばかり。




霰もない声を上げながら俺は身悶え、快楽に溺れる。涙と唾液が零れ、土に吸い込まれて草の養分となるため消えていく。少しでも快楽を逃がそうと握った手の平は、短い名も知らない草を数本抜き取っていた。






「外だから、興奮してんの? スッゴい締め付けてくるけど」
「そ、そんな、ちがっ…ひっぁん!」






耳元で囁かれた言葉に反論しようと顔を上げた瞬間、言わせないとばかりに奥を抉られた。刺激がより強く感じたのは、無意識に結合部に力が入ってしまったからなのだろうか。



目の前がチカチカと明滅する。弱い月光しか光源が無いのだから、目が眩むことなんて無い筈なのに。快楽で視神経がおかしくなってしまったのか。女の子みたいな高い声しか発さない喉も、まるでそういう風に作り替えられてしまったかのように思えてくる。それらは絶対に有り得ないことなんだけど。だけど、そうやって現実逃避をしていないと、俺は俺を見失ってしまいそうで、怖かった。









だけど――天の助は容赦なく、俺から俺を奪っていってしまう。









「や、あぁ、ああっ…」
「お前、ここ好きだろ? ほら、っ」
「んんっぁあ! や、だ…ひっ、あ、そこばっかぁ…!」





前立腺ばかりを集中的に攻められ、身体中を駆け巡る強い快楽に腰が震える。もう、今すぐにでもイってしまいたい。だけど天の助は意地悪で、俺が絶頂を迎えそうになると、途端に動くのを止めてしまう。吐き出せない熱が身体を浸食して、辛いばかりだ。





やだやだと首を振っても、天の助はイかせてくれない。剥き出しの背中を舌が這い、その感触にぞわぞわと肌が粟立つ。それすらも快感になってしまい、燻る熱がどんどんと蓄積されていく。狂ってしまいそうな熱量に堪えきれず自分でしてしまおうとしても、伸ばした手は天の助に易々と絡め取られてしまった。






「ダーメだって。ほら、もうちょっと頑張れよヘッポコ丸」
「あっ、うぁ!」






最奥を突かれ、自分の体が浜に打ち上げられた魚みたいに跳ねた。けれど天の助はその一度きりで動くことを止めてしまい、俺はまた蓄積された熱に苦しめられることになってしまった。










イケない辛さに体が震える。もうこれ以上我慢なんて出来ない。耐えていられない。早く熱を解放してしまいたい。そして…楽になりたい。






「てんのすけっ…」







体を捻り、天の助に手を伸ばす。その手を取って、「なんだ?」と問い掛けてくる。







「も、やだ……はやく、イかせ、てっ…」
「限界か?」
「…ぅん…」
「俺的にはもうちょっといじめてやりたいんだけどなぁ。…ま、可愛いから許してやるよ」







なにが可愛いだ、なにが――と、普段なら「目大丈夫か」と冷ややかに見つめるところだが、今回は状況が状況なため、天の助の目が異常で良かったと心から思った。可愛いって思われることでこの状況から解放されるなら、もうなんでもいい。





手を引かれ、無理矢理な体勢で唇を合わせる。天の助はすぐに顔を離し、あろうことか下肢が繋がったままの状態で体位を正常位に変えてきた。そのせいでナカが擦れてイきそうになったけど、決定打には至らなかったらしく、何も吐き出せはしなかった。









涙で霞む視界に映るのは、欲情しきった表情の天の助と、満点の星空。少しだけ空が白んでいるのは、夜明けが迫っているからなのだろうか。まずいな…ボーボボさん達に見付かる前に宿に戻らないと、何を言われるか…。





「なーに考えてんだ?」
「っあ…ぁ…早く、帰らなきゃな、って…」
「あー確かに。ちょっとだけ明るくなってきたもんな。…んじゃ、さっさと終わらせっか」






さっさと終わらせなかった張本人が何言ってんだか。呆れを欲情で掻き消し、誤魔化すように腕を天の助の肩の辺りに回してしがみつく。いつでも来て良いよ――って、そんなささやかなアピール。






天の助は俺の額に小さなキスを落とすと、途端に律動を開始した。さっきまで物足りない刺激しか与えられなかった俺にとって、それはあまりに大きな快楽だった。大した回数を突かれた筈じゃないのに、俺は吐精した。飛沫した精液が腹を汚し、ベタベタと肌に纏わりついた。





「ん…あ、あぁ…」
「おいおい…置いてくなっ、てっ…!」
「ひゃっ!? ああっぁんん…! っまって、天の助ぇっ…!」






達したばかりで敏感になっている身体に、天の助は容赦なく律動を繰り返す。絶え間なく与えられる快楽は俺には強過ぎて、達したばかりで萎えていた筈の自身もすぐに屹立して先走りを零す。天の助はそれを見て満足そうに笑って、指を絡めてきて更に俺を追い詰める。








グチュ…グチュ…この水音は一体どこから奏でられているものなんだろう。発信源がどこであろうと、こんな川辺にそぐわないのは変わりないし、俺が羞恥心にいたたまれなくなることも変わらない。しかし天の助が齎してくる快楽は、それらを凌駕して目先の気持ちよさだけを感じさせてくれる。











早く帰らなきゃいけないのに、ずっとイかせてもらえなくて辛かった筈なのに、まだ終わらなければいいのに――なんて、考えてしまう。









「んっあぁ! あ、ん、ひぁっ…あ…天の助、おれっまた、ぁっ…!」
「はっ…俺も、そろそろかな…一緒にイこうぜ、ヘッポコ丸」
「んっんっ…う、ん…!」






強く頷き、しがみついている腕に力を込める。密着する肌。触れた素肌は汗ばんでしっとりとしていて、ひどく熱かった。俺がの肌が熱いのか、天の助の肌が熱いのか…はたまた、両方か。







俺の喘ぎ声と、天の助の荒い呼吸はまるで噛み合わない。バラバラのリズムで刻まれるお互いの鼓動。徐々に込み上げてくる射精感。あぁ、もう駄目だ、追い込まれた。また…イってしまう。









女の子みたいな声を上げながら、俺は天の助にキスをねだる。言葉にしなくても、天の助は分かってくれた。小さく微笑まれたと思ったら、唇にむしゃぶりつかれ、嬌声どころか呼吸まで食べられてしまう。差し出した舌は容易く絡め取られ、自分の意思に関係無く天の助の舌と共に踊っていた。どちらのものか分からない唾液は顎を伝い、ポタポタと地面に落ちていく。






「ふ、は…んんっんんぁ…!!」
「はっ、はっあ…!」






二度目の絶頂を迎え、弛緩しきっていた身体がびくりと強張った。自分の腹に飛び散る白濁。数瞬遅れて体内に熱いモノが流れ込んできた。天の助も俺のナカに精を吐き出したらしい。互いにくぐもった声を上げて、一滴も残さないように残滓すら絞り出した。







永遠にも思えた射精を終え、お互い荒くなった呼吸を正すために唇を離し、ひたすら深呼吸を繰り返す。快楽で滲んだ視界の向こう、欲情の消えきらない天の助が俺を見ていた。俺達の唇がまた重なるのは、自然なことだった。














修行で疲労していた体に青姦は酷だったようで、意識を飛ばしこそしなかったものの、あまりの気だるさに俺は身動き一つ取れなくなってしまっていた。そんな俺を天の助が背負い、俺のナビのもと森を抜けて宿に戻った。その頃には、東の空は本格的な夜明けを迎えようとしていた。みんなが起き出すまで、もう少ししか時間は残されていないだろう。






気付かれないように部屋に戻り、一緒にシャワーを浴びて、その後ちゃんと足の治療をした。消毒して、グルグルと包帯を巻き付ける。まだ少し痛むけど、出血も止まってるし、歩けないことはないだろう。これからはもっと気を付けないとなぁ…。





「とりあえず、少し寝とこうぜ。疲れただろ?」






救急箱を仕舞ってくれていた天の助がそう言った。欠伸をかみ殺しているところを見ると、天の助も相当な眠気に襲われているらしい。





「この疲労感の半分は天の助のせいだからな」






天の助が来てくれなかったら、怪我したこの足で戻ってくるのは大変だっただろうから、そこには感謝してる。…でも、ここまでの疲労感を与えやがったことに対しては文句言わせてもらう。




天の助は自分のベッドに腰掛けながら、ジト目で俺を睨む。




「…ヘッポコ丸だってノリノリだったじゃん…」
「ううううるさい! 良いからお前も寝ろ!」






ボソリと呟かれた言葉に、体中の血液が顔に集まってきたかのような錯覚に襲われた。ノリノリだったのはまぁ…否定出来ないので、どもりながらも無理矢理話を切って布団に潜り込んだ。嫌味に対する反論として、その言葉は効果抜群だった。







なんでか、心臓がバクバクいってる。湧き上がってきた恥ずかしさ故だろうか。なんとか鎮めようとして目を閉じたら、星空をバックに欲情しきった天の助の表情が浮かんできた。ダメだ、全然寝れない。






と、俺が一人百面相していると、布団が捲られた。何かと思う前に、天の助が侵入してきた。…え、なにしてんのコイツ。






「…自分のベッドで寝なよ」
「固いこと言うなって。いいじゃんちょっとぐらい。腕枕してやっからさ」
「…勝手にすれば」






枕と頭の間に割り込んできた腕に頭を預けると、天の助はそのまま俺の腰に手を回して抱き寄せた。近くなる距離。さっきまで散々触れられていたはずなのに、その体温は俺に無償の安心感を与えてくれた。






先程とは裏腹に、段々と重くなる瞼。重力に逆らわず下ろしたその瞼の上に、柔らかな感触。多分、天の助の唇だ。急激に襲ってきた眠気により、それを確かめるのは早々に放棄した。






「おやすみ、ヘッポコ丸」







おやすみ、天の助。声にすることすら億劫で、心の中だけにその言葉は留められた。






次に目を開けた時には、お前の顔が最初に映ればいいな…なんてらしくないことを考えながら、俺は短い睡眠に身を投じたのだった。













秘密が、また一つ
(誰にも言えない夜のこと)
(心に刻んで、蓄積しよう)




天屁でガッツリ裏を書いたのはもしかしたら初やもしれません(・ω・) あれ、どうかな? もしかしたら書いたか? 分からん。まぁいっか←


だいぶ前にTwitterで呟いていた内容が主になってます。無駄に長くなったよ何故だ。書き上げるのにだいぶ時間が掛かったのは、俺が裏文書くのが苦手だからよ\(^^)/← どうやったら上手に裏文書けますか教えてくださいoyz これ毎回言ってる気がするね(・ω・)


また天屁で裏文書きたいなぁ(´∀`*) 新しいネタ考えないと(笑)。




栞葉 朱那

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