オレの彼氏は妙に男前です。





「あ、あの…黒子…」
「なんですか?」





放課後。いつものようにキツい練習を終え、オレと黒子は共に帰路についていた。



帰路とは言っても、学校の最寄りの駅までのこと。オレと黒子は家の方向が違うから、駅の改札を抜けたら別れなければならない。学校から駅までは徒歩十五分ぐらい。その十五分を出来るだけ長く引き延ばしたくて、オレ達はいつも駅まで一番遠回りになる道を選んで、わざと歩調も緩めて、ゆっくりゆっくり駅を目指す。忙しい日々の中で得られる、数少ない恋人としての時間。それを僅かでも長く感じていたくて、自然とオレ達の歩調はすごくゆっくりとしたものになる。






付き合い始めてまだ一ヶ月。キスもまだ数える程度にしかしていないオレ達だが、黒子が結構押してくるタイプだったのが最近判明したから…オレが黒子に食われるのはそう遠くないのではないかと思う。




まぁ、押してくるというか、大胆というか…そんな黒子は、自分の影の薄さを利用して、いつでもどこでもお構い無しにオレに触れてくる。






今だってそうだ。オレの手は、黒子にしっかりと握られてしまっている。校門出てからずっとだ。それも、恋人繋ぎで。いくら遠回りな道を選んでるといっても、擦れ違う人は決して少なくない。それなのに黒子はなんの羞恥心も感じていないのか、堂々と前を向いて歩いている。




だが、いくら黒子が気にしてないとはいえ、オレは恥ずかしくてたまらないのだ。名前を呼ぶ声が妙に小さくなっちゃうのも致し方ないと思うんだよね。




「や、その…手…」
「あぁ、大丈夫ですよ。他の人には見えてませんから」
「いやいやいや! 影薄いイコール姿が見えないじゃないだろ!? 気付かれにくいだけだろ!?」
「そうですね」





反論したらあっさり認めやがった。え、何コレ。オレもしかしておちょくられてる?





「でも、降旗くんの言う通り、気付かれにくいです。多分、今まで擦れ違った人達は僕に気付いていないと思いますよ。だから安心してください」
「安心、て…いや、でも…」
「…もしかして、迷惑でしたか?」
「め、迷惑とかじゃねぇよ。…けど…やっぱ恥ずかしいんだよ、なー…」
「…そうですか」




素直に気持ちを吐露すると、黒子は少しキョトンとしてオレを見た後、フッと表情を緩めてそう言った。そして繋いだ手に少し力を込めて「嬉しいです」と呟いた。



嬉しい? 嬉しいってなんだろう。意味が分からなくて、オレは首を傾げた。そんなオレの心中を察したのか、黒子は真っ直ぐな声で言った。





「今、降旗くんの心には僕しかいない。僕だけを意識してくれている。僕のことを感じてくれている。そのことが、とても嬉しいんです」
「黒子…」
「やっぱり、好きな人だったら何もかもを独占したいですから。こんな僅かな時間でも降旗くんを独占出来るなら、また明日も、手を繋がせてください。…帰り道だけでも、降旗くんの心を、僕に捧げてくれませんか?」
「……ぁー…」





…ヤバい。黒子ってすごいカッコいい。いや、知ってたけど。普段影薄いのに芯が強くて前向きで、自分をしっかりと持ってる奴だってのは、付き合う前から知ってたけど。







でも…ヤバい。こんなこと言われて、嬉しくないわけない。街灯が少ない道で助かった。きっと今のオレ、顔がめちゃくちゃ赤くなっちゃってるに決まってる。往来で茹で蛸状態になってるところを他人に…ましてや黒子に凝視されるなんか、耐えらんない。





「降旗くん?」
「…黒子、今はオレを見るな」
「そう言われると見たくなります」
「いや、マジ勘弁…こんな顔、見せらんねぇって…」
「僕は気にしませんよ。どんな降旗くんも、僕は好きです」
「……お前はオレを憤死させたいのか?」
「まさか」





愛したいんですよ。そう言って黒子は繋いだ指でオレの指をそっと撫でてきた。逸らしてるから表情は見れないけど、きっといい笑顔してるんだろうなって思う。顔を隠すのは諦めて、黒子に視線を戻す。予想通り、なんとも嬉しそうに微笑んだ黒子が、オレを見ていた。


黒子はいつでも直球だ。オブラート術ってのを使わない。だからオレは凄まじい早さで、黒子に対する愛情を深めていくことになるんだろう。





「……黒子、一つ訂正な」
「なんですか?」
「帰り道だけ、なんか…少なすぎる」





今度はオレから絡めた指を強く握って、黒子に倣って、ストレートに自分の気持ちをぶつけた。





「オレの心は、いつだってお前に捧げてる。…ってか、オレの心はとっくにお前のじゃんか」







黒子に告白されたあの日から。







オレの心はとっくに、黒子に奪われてしまっている。










帰り道だけ、とか…そんな遠慮がちにならなくていいんだよ。独占したいとか言うけどさ…お前はもう、とっくにオレを独占してるんだから。






「…降旗くんがそんなことを言ってくれるとは思いませんでした」
「オ、オレだって、たまには素直になるよ」
「とても嬉しいです。ありがとうございます、降旗くん。僕、もっと君が好きになりました」
「…バーカ。オレだって…黒子のこと、すっごい好きだよ」
「…ありがとうございます」






黒子が立ち止まる。オレも同様に足を止める。自然と交叉する瞳。ゆっくりと近付いてくる黒子の顔。オレは拒まなかった。自然と下りる瞼。その数秒後に感じた唇への感触。繋がれた手はそのままに、オレ達はずいぶんと長い時間(実際はそうじゃなかったかもしれないけど、オレはすごく長く感じた)唇を合わせていた。






キスしているオレ達の横を、誰か通り過ぎただろうか。黒子の存在だけをただひたすら感じていたオレにはさっぱり分からない。たとえ誰か通り過ぎていたとしても、オレ達の存在には気付かないでほしいとこっそり願った。








今のこの瞬間は、誰にも邪魔されたくなんてない。――だから誰も、オレ達に気付かないで。













男前カレシ
(このままじゃ止まらなくなりそうなんですがどうしたらいいですか?)
(頑張って止まって!)





黒子にくさい台詞言わせたくなっただけですごめんなさい(^q^)←






栞葉 朱那

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