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押し入れにしまっておいた駒を揃えて準備が整うと、気を利かせた玄君が珈琲を持ってきた。クロちゃんにはブラックを置いて、俺には暖めただけの空のカップを。そしてテーブルの端の方にティーポットを置いた。


ドSなクロちゃんの弟だけあって良い性格してるよね。
自分で淹れろってか。


「くぅ兄、珈琲」


「あぁ。ご苦労」


玄君が去り際に俺を見ながら立ち上がり、何か言いたげな雰囲気をしたまま結局キッチンに立ち去った。



「………………」


……変に居たたまれなくなるような事するなよ。俺にどうして欲しいわけ?


「流石俺の弟だな」


いつぞやの様に胡椒でも入れてやろうかクロちゃん!


「玄、何作ってんの?」


「摘まみになりそうなもの」


「玄君お菓子作ってー!」


「お菓子食べたらご飯食べられなくなるよ、藍」


「青へぶっ!」


「ちょっとは大人しくできねぇのかクソ兄貴!」


キッチンでは3人がケタケタ笑いながら何か作ってるし、部屋の隅では2人が愛の攻防を広げ、フローリングではチェスと将棋と囲碁石が繰り広げられている、という異様な光景が展開している。


あぁ、違う違う。



「ねぇ、クロちゃん」


「………………」


無視ですか。そうですか。良いよ別に。お前らなんか豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ!


「不可能だ」


「は?」


いきなり脈絡なく呟いたクロちゃんは、不可能だと言いながらも駒を進めていく。チェスのジャックがコトンと倒れ、クロちゃんの手の内に収まった。


「豆腐なんぞで人が死んだら殺人など存在しない」


「殺人以前に、君人間じゃないしね」



「あぁ。だから俺たちには法など存在しないし、関係ない」


嫌みを言ってる事は気づいてるクセに、わざと違う方向から攻めて。


「ねぇー!」


ガッシャーンッ


「……………」


「……………」


藍君が囲碁板の上に何の遠慮もなく上半身を滑り込ませて、でも見た目相応に子供らしくニコニコ笑う。


「準備出来たから机空けてって玄君から伝言だよ!」


悪いなんて微塵も思ってないんだろうねーこの子。
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