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□珈琲喫茶店1
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店内で叫ばないで!
「ちょっと何してんの!? この眼鏡高かったのに!」
「なんかムシャクシャしたんだ。だが後悔はしてない」
「そういうの実によくないよ!」
たいして仲が良いわけでもないらしい。折原はテーブルに肘をついて、その上に顔をのせた。
「本当にもう……存在自体が稀な君はやっぱり愛せないなぁ」
ぅん?
「人間より全然面白くない。シズちゃんの方がまだからかいがいがあるよ」
何言ってんだろう?
人間より……っていうのは俺も思うところがあるから何も言わないけど、愛せないって、ねぇ? そりゃ愛せないだろうさ。クロちゃん人間じゃないし。俺この間聞いちゃったんだよね。折原が廃墟ビルの屋上で「人ラブ!」って叫んでるの。うん。全力でスルーしたよ。
折原の言葉にハッと吐き捨てたクロちゃんも負けずに人間を語り出す。
「人ラブを恥もせず叫べる人間などに愛されたくないな。人間は常に己の保身ばかり気にかける。貴様だってそうだろう? 折原」
「はぁ? 俺は愛する人間のためならなんだってするよ。君みたいに実際見もせずにいる惰性じゃないんだ」
「駒を使って遊んでる人間ごときがぬけぬけと。貴様と一緒にするな」
「なめた口じゃないかクロちゃん」
何を思ったのか、折原はテーブルの端に並べられているコショウを手にとり、何の遠慮もなく、
「〜♪」
ドバーっとクロちゃんの珈琲に投入した。うん。それお前のじゃないよね? 店のだと知ってるよね? 何しやがんだコラ。
「あはははは! 君にはこれくらい辛い方がお似合いだよクロちゃん!! 苦い珈琲に辛いコショウ! まさに君みたいで最高じゃないか!!」
次の行動も実に早かった。クロちゃんも砂糖を乱雑に持つと、折原の珈琲にザザザザーっと追加した。
どうしたクロちゃん。
正気か?
「人ラブな貴様には甘味たっぷりの珈琲がお似合いだな」
砂糖入れすぎてドロドロだけどね。
お互いがお互いに変わり果てた珈琲をみて徐々に目が泳ぎはじめて、気のせいか2人の顔色が青くなっていってるように見える。
2人は珈琲に触れなければ良いものの、今度は譲り合いを繰り広げる。
「さぁ飲みなよクロちゃん」
「遠慮するな折原。貴様が飲むといい」
「しょうがないなぁ……じゃぁ一緒に」
せーのっ
ゴックン……
直後2人をやたら暗い空気が包んで、2人共両手で顔を覆って今にも吐きそうにしていて。
そもそも飲むなよ。
20代のクセに何でやることが子供なんだよ。
「胃が焼ける……ッ」
「砂糖が咽に……ッ」
味も最悪だろう。
ふらふらしながら立ち上がって折原はレジに、クロちゃんは玄関へ向かう。
「はーもう良いや。今日は帰るよ。仕事はまだ終わってないし」
「俺も帰る。無駄に疲れた」
何しに来たんだし。
真っ青な折原の顔を見ながら会計を終わして、無惨な珈琲を片付けて。ビルの2階にあるこの喫茶店からの眺めというのはなかなかのもので、街を歩く人々を見ることができる。
下を見れば、折原とクロちゃんが反対側に歩いていくのが見えた。