偽りの白
□幕間 弐
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名前side
私は母親も父親も、自分の名前さえ覚えていなかった。
たぶんだけど、弟妹が多くて貧しい家だったんだと思う。
私は母に連れられて遠い遠い場所へ出かけた。
理由を訊いても母は曖昧な言葉を返すばかりではっきりとは言ってくれなかった。
やがて立ち止まったのは人通りのない寂れた道。
「――、お迎えが来るからいい子で待ってるのよ」
その時のことは今でも鮮明に思い出せるけれど、母の顔と自分の名前は靄がかかったようになりわからない。
そう告げて去ろうとする母を私は何かを言って引き止めた。
しかし、最後は必ず迎えに来るからと言いくるめられてしまったのだ。
仕方なく道の隅っこに座って待つことにした。
満足な食事もできずに歩き続けた体は疲れていたようで私はいつの間にか眠りに落ちてしまった。
目覚めたら家にいる・・・なんてことはなくて
時折、通る人も私をちらりと見るだけで何も言わずに歩き去っていく。私はただひたすら待ち続けた。
「君が――か?」
そして、やっと名前を呼ばれた。
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