夢小説

□花宮
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真とこの部屋に籠ってから、今は来なくなった母がよくこの部屋に訪れていた。勿論扉越しだけど。母は人様のお家、ということも忘れ握りしめた拳で何度も扉を叩いてきた。
私の名前を呼んだり、真に罵声を浴びせたり。私は母にそれを伝えたことはなかったけど、毛頭この部屋から出る気はなかった。
早く諦めればいいのに。そう思うも母は予想以上にしつこく…。ある日私は母に言った。

「だめ、真をひとりにできない」

母から罵声を浴びせられているにも関わらず、私の胸に顔を埋めながら、ぶつぶつと愛を囁いている真。そんな愛しい真を離す、なんてそれこそ非常な人間のすることだ。
きつく真のことを抱きしめ、母の声を掻き消すくらい大きな声で私は叫んだ。

「私がいなくなったら真は独りぼっちになっちゃう
真は、私がいなくちゃ狂っちゃう」




もうとっくに狂ってるわよ


肺に酸素を送っていると、負けじと大きな母の声が聞こえた。その時、私は自分のなかでなにかが切れる音が聞こえた。
その切れたなにかは私の胸底にはらりと落ち、私の脚は無意識のうちに動いていた。
内側から思い切り扉を蹴り、半ば叫ぶように言った。(いや、もしかしたら叫んでたのかも知れない。)


「真は狂ってなんかない!!!!」

黙り込む母に気にせず言葉を続けた。次に喉から出た声は自分でも驚くほど落ち着いていて。


「…ただ、私を、愛してるだけ」






扉の前にあった母の気配はぱたぱたという音と共に遠ざかっていった。
きっと、私の真に対する愛の大きさを知って諦めたのだろう。
乾いた笑みを漏らしながらベッドに倒れこむと、伸びてきた真の舌に、そっと自分の舌を差し出した。



 
 

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