夢小説

□赤司
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そこには花が飾られたいる。灰色で埋め尽くされた空間に、その色鮮やかな花のみが存在を赦されるように。空虚、という言葉を連想させるその空間に、光を透す赤を揺らした大人と子供がふたり。
子供のほうはいくら歩いても変わらぬ光景に退屈したようで。先程から欠伸を小さな口から絶やさない。決して退屈という言葉を出さない子供に、大人は百円玉を二枚渡し、繋がれていた手を離した。

ぱっと表情を変え走り出す子供の後ろ姿を大人は慈愛よりも深い眼差しで見つめた。


「名前、久しぶり」

大人、赤司征十郎はゆっくりと口を開いた。愛しそうに、微笑みながら。目の前に屈み赤司はひとり語りかけ始めた。
その内容はなんの変哲もない、己の日常だった。最近仕事が忙しい。寝る時間が前より減った。料理が上手くなった。
一通りの話を終え赤司は息を吐いた後眉を下げ弁解の言葉を出した。近頃、あまり頻繁に顔を見せれなかった。すまなかった。
赤司が語りかけても一向に返事は返って来ず、その様子に赤司はやっぱり怒ってるのか、と肩を竦めた。

「お父さん!」

声のした方を振り向くと、二本の缶ジュースを両手で抱えるように持つ我が子。

「俺の分も買って来てくれたのか?」

「うん!」

明るく頷く我が子に胸の内が満たされていく。大きな手で頭を撫でてやるとより一層笑みを深くし歯を見せた。
そろそろ帰ろうか。小首を傾げ尋ねると小さな手で赤司の指を一本だけ掴み踵を返した。
まだ語り足りないけど。と胸の内で呟き、声には出さずその胸に語りかけた。


名前。俺達の娘はとても元気だ。
気遣いができて、とっても優しい…名前似だ。
そうそう。名前も名前にしたんだ。
いつまでも名前のことを覚えておきたいから。
名前と同じように育てるよ。
ピアノが弾ける名前と同じようにピアノを習わせるよ。
頭の良い名前と同じように塾に行かすよ。
名前と同じ所で感じるように教えるよ。
全部、名前と一緒にするからな。


そう語りかける赤司の口角は、幸せを噛み締めるような穏やかな表情だった。


 
 

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