夢小説

□花宮
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胸があったかい。いや、胸があったかいんじゃないな。胸以外が冷たいから胸があったかく感じるんだ。

「…、名前」

…あ、やっぱ違う。胸に真がいたから暖かかったんだ。すりすり。子犬みたいに私の胸元に擦り寄ってくる真。黒い髪がゆらゆら揺れてて、撫でてあげたくなる。でも、ごめん。撫でれないんだ。少しでも動かそうとするとなんとも言えない感覚が私を襲うから。
痛い、熱い。ありえない方向にねじまがった腕を見て、きゅ、と唇を噛む。真を撫でてあげる事ができない。役立たずな腕だ。名前って不安そうに私の名前を呼ぶ真。いつも擦り寄ると私に頭を撫でられるけど、今日はそれがないから不安なんだろう。

「撫でてくれねえの?」

しゅん、と聞いてくる真に困ったように眉を下げ、ごめんねと心の内で謝る。私だってできれば真の頭を撫でてあげたい。真から与えられる頭への衝撃に眉を寄せながら思う。
なら、名前を呼べ。お願いじゃなくて命令口調になった真。ごめんね。真。名前も呼べないんだ。
目を伏せなにも言えずにいると近くにあった金属棒がカランと音を立てた。焦って顔をあげ真を見上げると血走った目で私のことを見下ろしている真。その手には金属バッド。

「…んぐ、ん゛…」

口から出たのはとてもじゃないけど声とはいえないもの。しょうがない。真によって口もふさがれてしまったのだから。分からない筈なのに、真はその場にバッドを転がし私に抱きついてきた。

「…、やっと呼んでくれた」

酷く安心したような真の声。ごめんね、不安にさせて。そう真に伝えたくて。その辺に溜まっていた血を指で掬い床をなぞる。ごめんね真。

 
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