夢小説

□緑間
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部活が終わった後、戸締りをきちんとすれば体育館に残り練習することが許可される。俺は当然のように残り、ひたすらスリーポイントを打ち続ける。勿論、俺のほかに残る奴も沢山いるが、いつも最後まで体育館に残るのは俺だ。

今日も俺が最後まで残った。けど、まだ納得のいくシュートが打てていない。少し焦りながらもう一回。

「…っ…!」

踏み込んだ時に靴ひもを踏んでいたらしい。右足は綺麗に滑り、なんとか倒れずに済んだものの、ぶちり、と嫌な音が左足から聞こえた。
視線を足元に下ろせば、予想していた通り、靴ひもが千切れていた。
…これじゃ、今日の練習はもう出来ないな。
ふ、と溜息を吐き、ドリンクとタオルを纏めて置いておいた場所へ足を向ける。

「緑間君、」

振り返って、停止する。もう俺しかいないと思っていた体育館に苗字がいた。俺の荷物を置いていた所に腰をおろし、膝を畳んだ苗字が。

近付き、どうしたのだよ、と声をかける。苗字は顔だけをこちらに向け「緑間君が残ってたから」と言った。そうか。素っ気ない返事を返しながら苗字の隣へ腰をおろした。

「緑間君、バッシュの靴ひも…」

苗字が俺のバッシュに視線を落としながら言ってくる。先程の経緯を話すと苗字はすくりと立ち上がり体育館の出口へと小走りで駆けて行った。無意識にその様子を目で追い、苗字がいなくなった後も、扉を見つめていると、先程と同じように苗字が小走りで中に入って来、俺の横で立ち止まった。
軽く息を乱す苗字は、はい、と手を差し出す。その手に握られていたのはバッシュの靴ひも。視線を苗字の手から顔へ移すと、へにゃりと笑いストックあるから使って、と言った。

ありがとう、と酷く小さな声で伝え、苗字の手から靴ひもを受け取る。










「よし、」

きゅ、と音をたて結び終えた靴ひもを見て満足げに息を吐く。苗字はその間もずっと俺のことを見ていて、結び終えるのと同時にぺちぺちと小さく拍手を送ってきた。

「助かった、苗字のお陰なのだよ
……なにか、礼をするのだよ」

頬を人差し指で掻きながら、そう伝えると苗字の目がぎらりと光った、…気がした。
肩を上下させ喜ぶ苗字にたじろぎながらなにがいい、と問う。苗字はじゃあ!と既に決まっていた様子で、口を開いた。




「緑間君、キスさせて!」
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