夢小説

□緑間
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キュ、キュ

バッッシュのスキール音が不規則に体育館に響く。あちら、こちらで。練習に打ち込む男子バスケ部が使用する体育館は熱気でむせ返るほど暑く、集中していないと、その暑さのせいで動けなくなるほどだ。
選手ですらバテそうなその体育館の中で忙しなく動き回り、悲鳴にも近い声で歓喜の声をあげるマネージャーがひとり。

「緑間君!いいよ!そのまま!」

……さっきから意味の分からない声援を俺に向けてくる苗字。日常茶番事だから、気にはしていないが。最初こそ鬱陶しくて仕方がなかった。俺のシュートが決まる度に発狂したような奇声をあげ、ぱちぱちではなくばちばちと、手の平が叩きすぎで赤くなるほど激しい拍手を送る。

「煩いのだよ、苗字」

俺はとくに気にならないが、高尾や先輩から向けられる視線が気に食わない。“煩い、黙らせろ”と無言で訴えられている。

「あ、ごめん」

俺が注意すると苗字は必ず静かになる。そういう従順な所は助かるのだよ。でも、俺が苗字を制止する度に浮かべる自嘲気味な顔が俺は大嫌いだ。だから、少し凹んだ苗字の頭を注意した後は毎回必ず撫でてやる。そうすれば、ぱっと顔を上げ、口角をだらしなく上げ苗字は満足気に俺から離れていく。


 
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