夢小説

□花宮
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泣きそうになっている苗字を放置して俺は空き教室へと足を運ぶ

「…」

立てかけてある埃まみれの時計を見て次の授業が始まるまで何分かを確認する

適当に近くにあった椅子に腰を下ろし目を閉じる


俺がアイツを鬱陶しく感じ始めたのは入学してバスケ部に入部してから

俺よりひとつ年上のアイツは一年のころからマネージャーをしてたらしく先輩部員と仲が良かった
俺達にもよく世話を焼きよく気の回る奴だった

誰にでも優しくて、選手のことによく気付く奴だった

そんな苗字は俺達のラフプレーを見ても何も言わなかった

理由を聞いてみたこともあったが苗字は真っ直ぐな目で俺に言った

「皆が納得してプレーしてるならそれでいい」

あぁ、そうだ…

この時はまだアイツが鬱陶しくなかった

それから何故か苗字に構いたくなって、廊下で会ったら声をかけて
部活の休憩時間もよく話しかけて、帰りも一緒に帰らないかと誘って

アイツと一緒にいると、知らなかったアイツが沢山知れて
そのひとつひとつを見る度に胸の辺りがおかしくなって
もう忘れていた、何年か振りに自然に頬が緩んで
アイツのことをもっともっと、と求めていた


けど、そんなある日に気付いた


アイツと一緒に居る時の俺は、なんだ…?

なぜ笑う?
なぜ暖かい?
なぜ考える暇もなく口が動く?

知らないアイツを知るたびに、俺の中にも知らない自分が現れるようになった

俺の中に知らない何かが入ってくる
否、元から俺の中にいた…
そしてその何かが目を覚ました
なんで、いつ、どうして


「…っ」


苗字だ
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