短編

□始めの宣言
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朝早いホームの片隅で、なんとなく目が向かいのホームの方を見てた。特に何かを見ようとしたわけじゃなくて、そう、本当にたまたま見ただけだったんだけど

そこにはさ、なんか幸せそうににやにやしてる女の子。普通なら気持ち悪いとか言いそうな雰囲気放ちまくってて、うん、おれから見ても気持ち悪いな、十分。だけど彼女があまりにも幸せそうに笑うもんだからなんだかおれもつられてくすりと笑ってしまった


そんな、なんとも言えない出会い



ありきたり、なんかではないよな。どっちかって言うと変すぎる?

あれから何度も何度もそこを見てみた。いつも通りの時間に、彼女はそこへやってくる。で、いつも通りの笑顔でそこにたたずんでいるのだ、何かを待っているかと思えばそうでもないらしい

そんなおれたちを遮るのはいつもいつも乗っている電車で。おれが乗る電車で彼女が見えないのはなんだか悔しいと言うか、何と言うか。変だな、こんなの



「どう思う。」


「そんな事おれに聞くなよ。てか、お前電車だったっけ?」


「ま、まあな。で、ブン太はどう思うんだよ。」


「ジャッカル、つまり、それは愛だ!いや、恋だ、恋。」


「はっ。」


「あー!鼻で笑いやがったな!!お前から聞いてきたのによぉ。」



恋?おれが?!

いやいやいやいや!ありえない。ありえなさすぎる。だって、相手は名前も何もかもわからない女子だぞ?あ、ま、学校くらいはわかるけど……確かあれは氷帝の制服だったような気がするが。



「てか、ジャッカルって今まで誰かと付き合ったことあんの?」


「ない。」


「だよな。だろうと思ったぜぃ。」


「恋、かぁ……。」



ありえないと言っていてもそれがどんなものだかわかっていない。今まで恋なんかしている暇なんかなかったんだからな

それに、おれ、モテないし

おれの周りの奴らはとにかくモテる。まず、今おれの目の前でお菓子を食べまくっているブン太に、柳生、仁王、幸村、柳……その他もろもろエトセトラエトセトラ、あ、真田はどうだかはわかんねぇが、男には人気だな



「じゃあ、診断してやるから、はい、か、いいえ、で答えろぃ。」


「お、おぉ。」


「彼女をついつい目で追ってしまう。」


「は、はい。」


「彼女が笑うとなんだか自分も笑えてくるし、嬉しい。」


「はい。」


「彼女がいないとなんだか不安になる。」


「はい。」


「ふーん?三つともはいと答えたあなたは……ずばり!その子に恋をしちゃってるでしょー!!と、言うわけで告ってこい。」


「告……っ!?」



まだ話した事もまともに顔を合わせたこともないのにか?!ど、どどどどどどうやって!!何を、どうすればいいんだよ!!て、ていうか別に好きとか付き合うとかいいって言うか……

もう部活も引退したおれはそんな事を悶々と頭の中で考えながら家路を歩いていた。もちろん駅に向かって


ブン太のやろぉ……


いつもならみんな一緒に帰っていたがブン太がわざわざご丁寧にみんなをファミレスへと連行して今おれは一人。なんだって言うんだ…告れってか?!無理無理無理無理!!きっとまともに声すら掛けらんねぇって!



「あ………。」



あの子だ。

今日も笑顔……じゃない。今日はなんだか浮かない顔。いつも笑みをたたえていた顔は泣きそうな感じ。あんな顔初めてだ、いつもいつも見ていたあの子なのになんだか不思議だ


何があったのか聞きたいけど、そんな事聞ける仲じゃないし。どっちかって言うと、てか、まったくの初対面、無関係の人間だし……いや、でも。



「あの、これ、どうぞ。」


『え?あ、ありがとう、ござ、います……。』



戸惑ったような声。でも、なんだかおれは嬉しかった。初めて聞けたこの子の声に心臓がどきり、と高鳴って速く脈打つ

どきどき

あーうるさい!もしかしたら聞こえちゃってるかも?げ、それはやばいだろ。いや、ていうかこの状況が一番やばいだろ!だって目の前の彼女ってばすごい顔!ぽかんもいいとこだし!!


彼女はおれの渡したハンカチを見て少しの沈黙の後に今にも泣きそうな瞳に押し当てた。涙を見せないように、涙が零れる前にすばやく。でも、間に合わなくて落ちてゆく涙が、なんだか、すごくきれいだった



『ご、ごめんなさい。』


「何か、あったのか?」


『え?いや、あの、初対面の方にお話するような事では!』


「そうか……じゃあ、泣き止むまでここにいても?」


『え、あ、……はい。』



おれたちは近くのベンチでしばらく会話もないまま二人で過ごした。不思議な空間……か?まぁ、何て言うか夢、みたいだな

笑ってほしい、なんて。

泣かせたのは誰だとか詮索する気はないけど、おれならきみを泣かせないのになんて。笑ってほしい、だってきみの笑顔が好きだから……って、これが恋なのかな?


なんて言おうか、この後。どうやって繋げばいいだろう、上手く出てこない言葉はどう紡げばきみを笑顔にできる?



「いつも、笑ってたよね。」


『え?!見てたんですか?』


「はい、見てました。」


『は、恥ずかしい……あ、あれは特に意味はなくて、ですね、あの、えと………楽しくて仕方なかったんです。』


「何が?」


『学校、が。だってみんな大好きだし……それに、あなた、がいつもいた、から。』


「え?」



顔を真っ赤にして少し笑いながら俯いてる彼女がなんだかすごく愛らしく思えてきた。可愛くて、ちょっと抱き締めたいとか思ったり

て、ことは、だ。彼女もおれを見ててくれたって事だ。実はお互いに見合っていたなんてなんか変な話だ。おもしろいな、うん。じゃあ、この後はなんとなくなんて言えばいいかわかる



「ねえ。」


『はい?』


「おれと友達、なんかになってみませんか。」


『え………なってみよう、と、思いま、す。』


「よし、じゃあ、まずは、笑え!おれを見たら、な。」


『…はい!』



元気良く返事をした彼女は言葉で表せれないほど可愛かった

てか、おれ、恥ずかしい!!










恋始めの宣言
お友達からお願いします!


(で、結局どうなったんだよぃ?)
(あ?いいお友達。)
(は?!バカだなぁ、お前。)
(意外にも手強いんだ。)
(………ま、がんば。)


別にいいんだ。ただ、少しずつ少しずつきみの心に近づいてゆけたなら。だから、最初は自己紹介から始めてみません?







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