短編

□さよなら道
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おれたちはもう後戻りなんかできない。そう、わかってるんだよ。



『深司とずっと一緒、が、いいっ…!』



小さい頃によく遊んでいた川原に最近出来た彼女と一緒に歩いていた。おれは彼女に一度も触れずに、見もせずに川原ばかり見ながら歩いている。そんな、時だった。

あいつ……だよな?

川原にうずくまるように嗚咽をもらしながら泣いている。そして、ぽつりと呟いた言葉。一瞬おれは自分の耳を疑った。幻聴なんじゃないかと思った。だってそれは自分が一番聞きたい言葉、一番望んでいた言葉だったから。



『……愛してる。』



次は、はっきりと聞こえた。でもおれは聞こえなかった振りをした。受け入れちゃいけないんだと何度も自分に言い聞かせて早足でこの川原を去ろうとする。すると、後ろにいた愛してもいない彼女がおれの手を取った。それをおれは反射的に……振り払った。



「深司くん……!」


「ごめん。」


「待ってよ!!」



やっぱりだめだったのかもな。おれが悪かったよ。おれが子供だったんだな。きみを見てるのが辛くて、逃げたんだよ。嘘だよ、応援したいだなんて、手放したいだなんてさ。

誰にもやりたくなんかない。応援するなんて無理だ。むしろぶち壊しにしたい。


おれはきみが泣いてるなんて知らなかった。いや、知りたくなんかなかったよ。だって、幸せ、なんだろ?だったら笑えよ。泣くなよ……きみが泣いたらおれまで泣きたくなるだろ。おれにとってきみがどんな存在だか知らないから泣けるんだろう?ひどい人だ



「忘れらんねぇよ……。」



一生かかっても無理だ。おれは誰かを愛することもできずに死ぬんだよ。それは全部きみのせいだから

大好きなのに、どうしても伝えられない。おれは間違っていたんだろうか。じゃあ、今までおれがしたことは何?今、好きと言えば楽だろうな。だけど、きみを傷つけておれだけ笑うことができるか?無理だな。


あの時、あんな言葉を聞かなければおれがこんなにも苦しむことなんてなかったのに。なんで、神様はおれに聞かせたんだ。残酷な神よ、どうして。



『深司。』



目を瞑ると、耳を澄ますと思いだすはきみばかりだ。なんで消えてくれない。いつまで経ってもおれの中できらきらして眩しい。やめろよ、どうかやめてくれよ。おれを解放してくれ。頼む

優しい声音でおれを呼ぶな。怖い、怖いんだ。おれは……きみが…だから。


泣きたくなるような日々はすぐに終わるだなんて決め付けていた。全然終わっちゃくれない。続くばかりだ、悲しみと後悔と涙は。ぐるぐるとおれの頭を支配して、あの日のおれを責めるように増していくこの気持ち。


泣いているお前におれは泣かないでなんて言えなくて、ただ自分を戒め、追い詰める。あいつの悲しみをおれが少しでも味わえばいい、とかただの自己満足で。



「好きだ……。」



本当に、本当に、嘘なんかじゃなくて、冗談なんかじゃなくて。好きなんだよ、愛してんだよ。

今、気づいても仕方がない。やっぱりきみじゃなくちゃだめなんて言っちゃいけない。歩きだしてしまったんだよ、おれたちはおれたちの道を。ばらばらの別れ道


立ち止まって空を見上げる。赤と紫と橙色。川のせせらぎが耳に心地いい。そして、おれが一人。


ばかだったおれは。気づけなかったきみの想い。なぁ、どうすればよかった?おれはどうすればきみを泣かせずに済んだ??おれがきみに好きと言えば笑顔のきみが見れたんだろうか。勇気がなくて逃げていたのはおれだよ。好きと言えなかったのはおれだよ



じゃあ、きみに最後の言葉を届けようと思う。どうかこの想いを川が乗せていきますように



「愛してる……愛していたよ。」



おれはきみ以外をもう愛せません。愛しません。だけど、今は過去形で。










さよなら道を歩くぼくら
後戻りはできないよ


(別れよう。)
(なんで!深司くんから言ったんじゃない!!)
(もう誰にも恋いはしないんだ。)
(待って……!)


過去形にしたのはおれへの罰。きみを今でも好きだと言うおれへの罰だから。おれはこれからきみ以外を見ないよ。でも、きみを好きにはならないから。







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