Gift

□なんだかんだ言っても好き
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午前中だけで部活が終わった土曜日。
流川にチャリでアパートまで送らせた俺はせっかく家に着いたというのに着替え
てまた外に出てとある駅を目指して歩いている。

何でって?
実はこれから…その……で、デートなのだ。
あのバカギツネと。

俺は昔からアウトドア派だから時間があれば「どっか出掛けようぜ」って流川に
言うけど、アイツは俺と真逆でインドア派。
だから返ってくる返事は…

「やだ。一緒に寝てよー」

こればっかだ。
で、それにいつも流されちまうもんだからアイツと二人で外に出掛けた事はほと
んどない。
近くの公園にバスケしに行くとか、コンビニに行くとか…その程度だ。
あのワガママ野郎め。

そんな流川がだ。
どういう風の吹き回しだか知らねぇが突然「今日部活終わったらどっか出掛けよ
ー」なんて言ってきた。
俺は思わずぽかんと口開けてアイツの顔をまじまじと見ちまった。だって驚くだ
ろ普通。
「別にいいぜ」なんて素っ気なく答えたけど本当はすごく嬉しかった。
内緒だけど。

で、普通に一回家帰ってからアイツが俺の家まで迎えに来るとばかり思ってたの
に、アイツは「デートは待ち合わせからだ。だから駅前で待ち合わせ」とか言っ
てきやがった。
どうやら妙なこだわりがあるらしい…。
本当にアイツはバカギツネだ。
でもそんなとこが可愛いとか恐ろしい事を思っちゃってる俺は相当ヤバいと思う


まぁ、いっか!
とりあえず待ち合わせ場所の駅前に着いた俺はキョロキョロと辺りを見回……そ
うとして止めた。
だって寝坊して遅刻するという最悪なパターンの常習犯のアイツが待ち合わせ時
間ぴったりに来るわけがねぇ!
どうせ帰ってすぐ『ちょっと時間に余裕があるから昼寝しよう』とか言って昼寝
したに違いない。
よくて今こっちに向かってる最中。
悪くてまだ爆睡中だ。
しょうがねぇ……
その辺で時間潰すか。
そう思ってふと視線をずらすと………………

い、いやがる!!

流川のヤツ、いるじゃねぇか!
なんなんだ今日は!!
明日…いや、あと1時間もしたら絶対大雪だ!吹雪だ!
そんで北極みてぇになっちまうに違いねぇ!!!

けどよ……
アイツ、目立ち過ぎ…

流川は何もしねぇでただぼさっと突っ立ってるだけでも目立つ。
人並み以上の身長と整い過ぎたあの容姿だもんな…
そんなスタイルもいい流川がだ。
駅前で明らかに人を待ってます!!って雰囲気で突っ立ってりゃあ余計目立つんだ
よ…
しかも…なんだあれは……
なんでアイツ…クレープなんて持ってんだ!?
に…に…似合わねぇ!!
う、ウケる!!
でも、アイツ甘いの嫌いなはずだけどな…
あ。
も、もしかして…
俺に……とか!?
わぁ〜……
だとしたら恥ずかしいやつ!!
じんわりと嬉しさで満たされていく俺の心。
だけど俺は、そんなクレープ片手に仏頂面で突っ立ってる流川に近づく事なんか
できなくて、咄嗟にすぐ近くの時計台に隠れた。
とてもじゃねぇけど「おう、待ったか?」なんて近づける雰囲気じゃない。
だって通り行く人(特に女の子)がみんな振り返って流川の様子をちらちらと伺う
ように見てるんだぜ!?
絶対どんな女の子がやって来るか一目見ようとしてるに違いねぇ…
そんな雰囲気の中に俺が行けるわけがない。
行けるのはハルコさんみたいに可愛い女の子か、アヤコさんみたいに綺麗なお姉
さんだけだと思う。


あぁぁー…どうしよう
待ち合わせ時間、5分過ぎちまった…
勇気を出して行くか?
そう思ったけど、俺の近くで流川の様子を伺ってる女の子達が「あの人、すごい
かっこいいね!写メ撮っちゃおうか!?」「声かけてみたいね」みたいな事話してい
るのが耳に入ってきて俺の決心は崩れた。

やっぱり無理矢理にでも家に迎えに越させればよかった…
なんて後悔しながらうなだれてると、突然ジーンズのポケットの中から微かに音
が聴こえてきた。
ふと前を見ると流川がケータイを耳に当ててるじゃねぇか!
ヤバい!ぜってぇ流川だ!!
俺は慌ててケータイを取り出し電源ボタンを連打してケータイの電源を落とした

だって出るわけにいかねぇじゃん!

マジでどうしよう…
この俺様が本気で悩んでると流川がいる方から「あのぉ…お一人ですかぁ?」と女
の子の声が聴こえてきてまさか!と思った俺が顔を上げてみると……
案の定、流川は女の子2人組に逆ナンされていた。

「一人じゃねぇ。恋人待ってる」

女の子に対してぼそりと呟く流川の声が聴こえた。
前のアイツなら無視を決め込むか、睨み付けて「うるせー」のどっちかだ。
それをこれ俺が「女の子に対してそういう失礼な事すんな!」って言って聞かせた

忠実に守ってるみてぇだな。
流川にしちゃあ上出来だ!
よしよし!!

「でも、さっきからずっと一人でいますよねぇ?だから私達と何処か行きませんか
ぁ?ねぇ?」
「うんうん!そうだよ!行こうよ〜!」

流川にしては上出来な断り方で断られたにもかかわらず、女の子達は諦めてない
みてぇでうるうるの上目遣いで流川に迫ってる。
あれが流川じゃなければ完全に落ちたと思う。
流川じゃあ……ダメだ。
その証拠に流川のあの仏頂面は更に険しくなってる。

「行かねぇ」

再びぼそりと呟いて女の子達から逃げる為か流川はその場から離れようとしたみ
てぇだけど、女の子達は流川をガッチリとガードしてて逃げる事を許さない。
お、女の子って怖ぇ……。

俺の言い付けがあるから食い下がる女の子達を邪険に扱う事ができなくて余計に
不機嫌丸出しになっていく流川。
た、助けてやりたいけど……
恥ずかしいやら何やらでとてもじゃないけど無理だ。
それに俺が今あそこに出て行っても無意味なような………

どうしよう……
せっかく…せっかくアイツから誘ってくれたデートなのに……
こんなんで終わっちまうなんて…
もうどうしたらいいのかわからなくて絶望的になっていると…

「しつけぇ!恋人待ってるから行かねぇって言ってんだろ!お前らに構ってる暇な
んかねぇ!」

流川の静かな怒鳴り声が聴こえた。
アイツ…ついにキレちまったみてぇ…

女の子達はやっと諦める気になったのか、そそくさと流川から離れて行った。
そりゃそうだよな……

あ、あれ…
俺…いま…なんか、きゅんって……

不覚にもきゅんとしてしまった俺は、今度こそ時計台の影から出て流川に駆け寄
った。

「わ、悪ぃ!遅れちまった!電話もごめんな?電池なくなっちまってよ…」
「別にどあほうが無事に来たからいい。ってゆーか、俺もごめん」
「は?」
「これ、どあほうが好きだから買ったんだけど…ちょっと潰しちまった」

そう言って流川が差し出したのはクレープ。
さっき女の子達を怒鳴った時思わず握り潰しちまったらしい。

「いいよ!ありがと!美味そう!」

俺は差し出されたクレープを受け取って一口、口に含んだ。

「それから、あと一つ…ごめん、どあほう」
「え?」
「さっき変な女に声かけられた。我慢したけどしつけぇし、どあほうとデートす
る時間がなくなっちまうって思ったら我慢できなくて怒鳴っちまった。だから、
ごめん」

馬鹿野郎…
そ、そんな事…わかってるっつーの!
わかってんのにそんな事言われたら……
もう、本当にコイツはバカギツネだ!!
さっきだって俺は大幅に遅れた上に、ケータイの電源も落とした。
なのに、コイツは怒るどころか「無事に来たからいい」って言った。
これだって俺が好きだからってだけで買ってきてくれた。
冷たいなんて言われてるけど、本当はとっても優しいヤツ。
俺の事一番に考えてくれる優しいヤツ。
バカみてぇにモテるのにそれを全く鼻にかけない、いいヤツ。
てか、気づいてねぇだけか。
とにかく俺の恋人は最高なんだ。

「いいよ別に。なぁ、何処行くんだ?」

最初よりも集まる視線の中、俺はうっとりと流川に問いかける。
もう視線なんか気にしねぇ。
恥ずかしくなんかねぇ。
恥ずかしいって思ってた自分が恥ずかしいぜ。

「どあほうが好きなとこ」

ふと小さな笑みを浮かべてそう言うと流川は俺の肩を抱き寄せてきた。
ば、バカ!
近寄り過ぎた!!
肩なんか抱き寄せんじゃねぇ!!
いつもならそう言って頭突きだ。
けど、今日は許してやる。
俺は流川にされるまま身を任せた。

「早く行こうぜ!」
「うん」

男同士かよ…気持ちわりぃの!って笑いたきゃ好きなだけ笑え。
罵りたきゃ勝手に罵れ。
俺は恥ずかしい事なんかしてねぇし、流川を恥ずかしいとも思わねぇから。
もうどうでもいいや。
そんな事。

あの湘北の王子様なんて呼ばれる男がこの俺様に夢中…っていうのは悪い気はし
ねぇな。
なぁんて……。

「どあほうちょー好き」
「あぁ、あぁ、わかったわかった」

俺も好きだよ、大好きだ!悪いか馬鹿野郎!
帰ったら、もういいっていうくらい言ってやるから覚悟しとけ!

END


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