短編集 BL
□お昼寝びより。
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それはよく晴れた日の事。
お昼寝びより。
「市村!!」
今日も今日とて、かの鬼副長の声が頓所内に響き渡る。
待ち望む人物の返事が聞こえず、声の主、土方歳三は副長室から縁側に出て、再度その名を呼ぶ。
「いねぇのか市村!!」
視界には、いまだその姿は現れない。
たったそれだけの事でも、土方にとっては死活問題で。
その愛しい人の姿を1秒でも早くこの目に映したいのだ。
(重症だな、俺も…)
思わず溜め息がこぼれる。
世の人々がこんな姿を目にしたら、まさかあの鬼と呼ばれる冷酷無情な新撰組副長の土方が、と目を丸くし、あわや否定する者も出てくるだろう。
しかし、これが土方の真の姿なのだ。
(遅せぇ…)
時がたつごとにイライラが募っていく。
我慢の限界が着々と近づいてくる。
そんなことにはおかまいなしというように目の前に広がる青空を睨みつける。
元々短気なこの人の我慢がここまで保てるのも、愛しの“市村鉄之助”という存在の成せるところである、が。
ついに我慢の糸は切れ。
しかし再びその名を呼ぼうと開けた口からは、その名が紡がれることはなく。