小説2

□目覚める楽しさを知っている
1ページ/1ページ


大きな大きな鞄を持って、大好きなあの人の元へ行こう。



「武!いつまで荷物いじってんだ。もういい加減寝ねぇと…」
『ん、もう少しなのな』
鞄のチャックを開けては荷物を入れ替えて、また閉めたり開けてみたり…俺は二時間近くも同じ事をしている。
「明日は朝一で空港へ行くんだから、早いとこ寝ろよ」
俺の落ち着かない様子に呆れながら「お休み」と親父は部屋を後にした。明日は5時起き。あ、もう11時になるじゃねーか!長旅になるから寝ておかねぇと、流石の俺も体力がもたねぇ。
『よし、こんなもんだな…着替え良ーし!パスポート良ーし!財布良ーし!』
荷物がぎっしり詰まっている鞄を指差し、最終確認。
『問題は土産だ…急だったから用意出来てねぇ』
空港で買ってくか。ディーノさんやロマーリオのおっさんも絶賛する親父特製の寿司は持って行けねぇし…うん、そうしよう。せめて並盛銘菓とか土産に持って行きたかったけど、仕方ねぇな。
『もっと、早く連絡してくれれば…ディーノさんってば!』
布団に入りながら、小さく溜息をつく……でも、次の瞬間には口許が笑っちまう。学校から帰ると、ディーノさんから手紙が届いていた。[イタリアで俺とゴールデンウイークを過ごせ]と、手紙と一緒に日本〜イタリア間の飛行機チケットが入っていた。俺は、親父にチケットを見せて、直ぐにディーノさんに電話して、明日の朝一でイタリアへ向かう約束をした。本当に急な事で、俺は慌てっぱなしだったけど、親父の協力で、なんとかイタリアへ行く準備が出来た。
『へへっ…』
また一人、布団に包まりながら笑っちまう。覚めて、電車と飛行機を乗り継げば、大好きなディーノさんに会えるんだ。



『もう、寝よ…』
自分に言い聞かせ、目を閉じる。明日からの俺の5連休はイタリア一色。



END

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ