小説2

□赤いラベルのシャンパン
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『大人はイイッスねー』
昼飯をバルコニーで愉しみながら、シャンパングラスを傾ける山本はご機嫌で話している。
「昼からHやりまくっても、大人は叱られねぇから?」
『…ぷはっ!なに言ってんすかっ?…ケホッ』
「違うのか?…てゆーか、拭けよ」
キンキンに冷やしたシャンパンを吹き出し咳込む山本に、俺はタオルを渡す。ゴシゴシと顔や服を拭きながら、俺を見たかと思うと、奴は早口で喋り出した。
『俺が言ってるのは、大人は昼から酒を飲めてイイなぁ…って事ですよ!』
「へぇ?…一昨日は夕方から俺とHして、昨日は昼間っから俺とHしてたのは、どこのどいつだっけ?」
『わあっ!…ここの人達に聞かれたらどーするんですかっ!!それに、俺が言ってんのは酒の…』
「俺とお前がHしてんの、この別荘の奴らは皆、知ってるって」
『ディーノさんっ!』
慌てふためき、俺の口を押さえようとする山本を、ひょいと交わし、ベンチを立つ。『のわっ!ディーノさんっ』と、体制を崩しかける山本を、ハハハッと俺は笑った。



恋人の山本と別荘で過ごす夏の休暇は、三日目を迎えた。街から車で2時間弱で着くこの避暑地で、のんびり飯を食ったり、DVDを観たり、セックスをしたり……時々はこうして、自分にもこの愛しい男にもご褒美をやらなきゃな。



「ホラ、起きろよ」
俺はニヤつきながら、手を差し延べる。
『…自分で立つからいいっす』
バルコニーの床板に手を着き、起き上がる山本。よろけかかっても、上手く手を着いて、ぶざまにコケたりしない…昔から本当に運動神経が良かったよな。
『今日はもう、俺、ディーノさんには触らない事に決ーめた!』
そう言いながら、プイッと背中を向け、グラスにシャンパンを注いでいる。
「お前がそう言うなら、俺も触んねぇ…って、酒、独り占めすんなよ!」
『ウルフ・ブラス…オーストラリア産なんすねー、このシャンパン。旨いっすねー!』
赤いラベルが貼られた酒瓶をひょいと持ち上げながら、山本は俺を無視する素振りを見せる。
「山本ぉ…」
ちょっと下手に出た俺をチラリ…と見て、山本はにんまりする。
『冗談っすよ。今の俺があんた無しにやってけないって、解ってんでしょ?』
山本は伏せ目がちな瞳で呟く。
「うわ…お前、そうゆうの反則っ」
俺は一瞬、焦った口調になる。山本はそんな事には構わず、俺と自分のグラスに酒を注いで、カチッと合わせる。俺も奴につられて、シャンパンを一気に飲み干した。
『…こうして、酒飲むのも、あんたと身体合わせんのも、俺には必要なんすよ』
些か赤らんだ顔で真面目に言う山本が、やっぱり愛おしくて、俺はギュッと抱きしめた。
「このまま、ベッドへ行くぜ?」
『夕飯に差し支えねぇ程度に…』
「夕べは、飯食えないくらい激しかったってか?」
『あ、やっぱ、ディーノさんに触ってほしくないかもなー』
言葉とは裏腹に、俺達はじゃれ合いながら、寝室へ向かった。途中、屋敷の者達の姿が見えなかったのは、主人である俺と、その恋人の山本へのささやかな配慮だったのかもしれない。



夏の休暇の三日目は、こうして過ぎてのんびり過ぎて行く。



END

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