小説

□冬空に掛かる虹の下で、どうしようもない僕等がいた
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「寒い…」
獄寺君と俺は、さっきから何十回も「寒い」と呟いている。
冬晴れの日曜日、部活が休みな山本から『たまには外で飯を食おうぜ!』と誘われ、待ち合わせ場所へ行くと、やたらと荷物を抱えた彼がいた。
「…てめー!何、そんなに持って来てんだ?」
山本を見るなり、獄寺君は刺々しく突っ掛かる。『んー?』
「飯食いに行くんだろ?ファミレスに入るのに、何だ?その大荷物は!」
『ファミレス?俺、公園で鍋やろうと思って、お前ら誘ったんだけど…』
「公園で鍋だとー?!」
獄寺君は、ブチ切れてた。
今日は激しく寒風の吹く冬日…こんな寒い休日は、部屋でゲームして一日を終えるのに、山本からの誘いが俺を外へ連れ出した。
獄寺君も、山本からの誘いじゃなかったら、こんな日は外へ出ないんじゃないかな?
「こんな強風の日に、外で鍋だとぉ?火なんて点きゃしねぇだろっ!」
『あー、それなら大丈夫なのな!俺、風よけの板を持って来てるし、イイ場所知ってるしな!ハハハ』
「笑ってんじゃねーよっ!この馬鹿がっ!」
寒風に震え、山本に怒鳴る獄寺君を止めながら、俺も「本当にこんな日に公園で鍋なんてやるの?」と尋ねたら、『ツナもやりたくねぇのか?…俺、おにぎりも握って来たのにな』なんて、瞳を潤ませるから、断る理由なんて見つからなくて……結局は、三人で並盛公園へ来てしまった。



『お湯が沸騰するまで、お茶とおにぎり食べてようぜ!』
山本は、公園の水道で鍋に水を入れ、コンロに火を点けた。
『風よけ風よけ…っと!』
コンロを囲う板を立て、火を調節していた。
『お茶は、竹寿司のカウンターから貰って来たけど、おにぎりは俺が作って来たのなー!』
ニコニコと、獄寺君と俺に、熱いお茶とおにぎりを渡す山本。
「お前が作ったのか…」
『ん!シーチキンと昆布と梅干しの三種類しかねーけど、まあ食ってみろよ!』
「…まずかったら、承知しねーからな」
『ハハハ!獄寺は食う前から厳しいのなー!』
さっそく文句をつける獄寺君に、三種類もおにぎりを作れるなんて凄いじゃないか…と山本を褒めると「この馬鹿を甘やかしてはいけません!」と返事が返って来る。
文句つけてる割には、もう、二個目を食べ終えている獄寺君。
山本の手作りおにぎりが、人一倍嬉しいくせに…素直じゃないよね、ホントに。



『おっ!沸いて来たな♪御坊と人参と…』
沸騰した鍋に、山本は家で切ってきたらしい御坊や人参、こんにゃく、葱などを入れて行く。
『あ、肉は豚肉だから、今日は豚汁にすっからな!』
お玉でアクを取りながら、機嫌良く喋る山本…俺、癒されっぱなしだよ。
横の獄寺君は、風下でソッポを向きながら煙草を吸って、相変わらず「寒い」を連発しているけど、チラチラと山本を見ている。
俺同様、将来の嫁は、こうゆう山本がイイ…とか思ってるんだろうなぁ。



ダシや味噌を加え、味見をした山本が『よし!出来たぜー!』と笑う。
手際良くお椀に豚汁を盛って、割り箸と一緒に渡してくれる…うわーマジ、こんな嫁さん欲しい!
『熱いから、気をつけるのな!……美味い?』
期待の眼差しで、獄寺君と俺を見つめる山本…豚汁啜りながら、赤面してる俺達ってどうなの?
「まぁ、食えるな…」
先に口を開いたのは獄寺君。
『やりぃ!味にうるさい獄寺に褒められると、すげー嬉しいのなー!』
「別に褒めてねーよ」
またまた獄寺君は…俺みたいに素直に美味しいとか、山本が作った物は何でも美味いとか言えばいいのに。
『美味いか?サンキュー!…俺、またツナに、何か作りたくなっちまうな♪』
ほらね?素直に褒めれば、山本はこんなに可愛い事、言ってくれる奴なんだよ…まあ、微妙に俺達のやり取りにムッとする獄寺君も可愛いんだけどね。



すっかり鍋をカラにした俺達は、何故か枯れた芝生に大の字に寝そべってる。
『…なんかさ、こうしてっと、空からUFOがやって来て、俺ら掠われそうじゃん?』
「おめーひとりがUFOに連れて行かれろ」
『…獄寺って、UFOの存在、信じてんのか?』
「頭の悪いおめーには理解出来ねぇだろーが、世の中には科学では解明出来ねぇ事もあるんだっ!わかるか?この馬鹿っ」
『へー…やっぱ、獄寺って面白いのな!ハハハ』
「んだとぉ?馬鹿にしてんのかっ!」
二人のやり取りに、俺が宇宙人ならUFOで山本を掠っちゃう…と言うと、獄寺君は「十代目が山本を掠うなら俺もお手伝いします!」と真顔で言い、山本は『お前ら二人に掠われるなら宇宙の何処へでも行くぜ!』と笑う。

こんなくだらない話が、何故か楽しい。

お腹がいっぱいなせいか、三人とも機嫌が良い。

『なあ!虹が出てるぜ』
山本が指差した俺達の視線の先には、虹が掛かっていた。

澄んだ冬空に綺麗に掛かる虹を見て、寒さに凍えながらも、俺達はやっぱり笑っていた。



END

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