小説

□雪が降る前に
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全てにおいて、困る事なんてないこの建物内が、どうゆうワケか冷え冷えしている。
環境整備は見た目も内容も完璧なのに。


「ねえ、エアコンが効いてないんじゃない?」
廊下で身近にいた部下の一人に尋ねると、彼はビクッとしながら答える。
「はっ!只今、館内のボイラーが故障してまして…」
冷えた空間で、脂汗をかいている…ボク、そんなにキツク言ってないんだけどなぁ。
「そう…早いとこ直しといてね」
ボクの武チャンが風邪ひいたら困るから。
「はいっ!直ちに修理いたしますのでっ!」


バタバタと駆けて行く彼の背中を見送り、ボクは自室へ戻る。
今日は、やけに寒いな…雪でも降るのかな?

「武チャン、ただいま」
廊下よりは幾分暖かいボクの部屋のソファーで、毛布を被った山本武が丸まっていた。
『ん……白蘭?』
毛布に包まりながら、うたた寝していたみたいだね。
『お帰りぃ…今日は寒いのなー』
「うん、ボイラーの調子が悪いみたい…でも、すぐに直させるからね」
『へー、そうなのな。早く直るとイイのな』
ヘラッと笑いながら、ボクに手を伸ばす。
「なぁに?」
『白蘭も毛布掛けるのな!』
「え?」
伸ばした手でボクを引き寄せ、毛布を被せる。
ぴたっと身体を付け、くるりと包み込む。
『な?こうして二人で毛布に包まってれば、直ぐに暖かくなっから』
「…そうだね。武チャンの体温で毛布が暖かいよ」
『へへっ…暖かいのをおすそ分けなのなー』
「………」
ニコニコしている彼の顔を見て、ボクはちょっと戸惑った。
頬に涙の跡がある。
時々……時々なんだけど、眠りながら泣いている。
武チャン、どうしたの?と声を掛けても『よくわかんねぇけど涙が出ちまう』…と彼は泣く。
君を【ボンゴレ】という、一日も早く消し去りたい組織から掠って来て、改ざんした記憶には、此処での楽しい生活しか植え付けていないはずなんだけど。


涙の跡を指で擦ると、ピクッと肩を震わせる。
最近の彼は、泣いている事を聞くと、なんでもない…と何処か強がる。
「武チャン」
『ん?』
「…悲しい事が少なくなる事しようか?」
『白蘭…』





ギシッ……ボクの豪奢なベッドは、この時ばかりは流石に軋む。
男二人分の体重がかかってるからね。
『…ぁあっ、白蘭っ』
「気持ちいい?武チャン…」
『んっ、イイ…』
ボクに跨がり、身体を開くカワイイ子。
彼と身体を重ねるのは、何度目だろう。
長く、しなやかな手足に、未成熟ながらも引き締まった筋肉。
ボクの元へ来る前は、野球と剣術を全身全霊でやっていた…と資料にある。
『ひゃぁ、ぁっ…』
「武チャンのキモチイイトコって、ココかな?」
『んっ…』
スポーツや武道をやっていただけあって、彼の身体はホントに柔らかい。ボクは、彼のナカに自身を挿れながら、次はどんな体勢で愉しもうか…と考えちゃう。
それくらい彼の身体は、抱いても抱いても飽きず、それどころか日に日にボク好みになってる気がする。
自ら腰を動かしながら、彼は呟く。
『ハァ…っ白蘭、俺、もうっ…』
「フフッ…武チャン、一緒にいこうね」
『あぁぁ…っ!』
ビクン!と跳ねる彼の瞬間の綺麗さといったら…。





「武チャン…」
『んー?』
「ボクは、武チャンが悲しい時には必ず側にいるからね」
『うん、わかってる』

『なぁ……白蘭は悲しい時とかってねぇの?』
「時々はあるかな。」
『そうゆう時は、どうやって悲しい事、忘れるんだ?』
「武チャンに触る」
『…んじゃ、俺も白蘭の悲しい事、減らしたりしてるの?』
「うん、してくれてるよ」
『………』
「武チャン?」
『へへっ、なんだか嬉しいのな!』



ボクは君のその純粋な笑顔に癒されている。

卑劣な手段で君を掠い、大事な記憶を盗んですり替えて……毎日、ボクを刻み込んでいる。

君を愛してやまない【ボンゴレ】の彼等は、いつかきっと奪い返しに来る。

もし、そうなったら、ボクは君を…彼等に奪われるなら君を…ボクのこの手で君を、愛し合ったまま殺してしまおう。



『白蘭』
「なぁに?」
『部屋、暖かくなってきたのな!』
「そうだね」
『エアコン、直ったのな』
「よかったね」
『外は、雪かな?』
「…えっ?」
『こんな寒い日は、雪が降ってるかもな!』



[外]の世界なんて、教えてないのに……君の記憶はどうなってるの?



ああ、なんたが不安になってきた。

君の記憶を、ボクとの幸せなモノだけに変えて行かなくちゃ。

酷い手段を使っても、甘く柔らかいボクと君の幸せの為に。

「武チャン」
『ん?』
「好きだよ」
『俺も白蘭が好きなのな!』



そう、この安心をボクは手放しちゃいけない。



END

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