小説
□クリスマスは君と…
1ページ/1ページ
俺は幻を見ているのだろうか?
常に妄想しているキラキラした世界が、目の前に現実として存在する。
ああ、この現実にいるのが、俺と君だけなら良いのに。
なんて素敵なクリスマスイヴ!
『なあ、ツナ、大丈夫か?』
俺、ガキの頃はサンタクロースはいない…と諦めていたけど、本当はいたんだ。
白い髭を蓄えたじいさんじゃなく、黒い短髪にくるくるした瞳…真っ赤な三角帽子を被り、ミニスカにロングブーツを履いた可愛いサンタクロース。
『ツナ、鼻血拭けよ。ホラ!』
目の前のキュートなサンタクロースは、俺の鼻をティッシュで拭ってくれる。
『うわぁっ!ツナ、益々鼻血出てんじゃん!あーっ!獄寺まで!』
俺の大量な鼻血同様、隣の獄寺君の鼻からも、ボタボタと血が流れている。
『獄寺も、鼻血拭くのなっ!』
かいがいしく、俺と獄寺君の世話を焼くサンタクロース・山本武。
彼が動く度、真っ赤なミニスカが揺れ、チラッと[見えそう]な気がして、鼓動が高まる。
どっから見ても[男]でしかない山本…レディサンタ姿が堪らなく可愛いのは、何故なんだ?
『よし!全員が集まったところで、今日は皆に俺からプレゼントなのな!』
[全員]…俺以外にも、リボーンがいて、獄寺君がいて、呼んでもない六道骸もいて、群れる事を嫌う雲雀さんまでもがいる。
我が家でのクリスマスパーティー…なんて人口密度なんだ!
「ちょっと、山本!」
『ん?』
「その服装は並盛町の風紀を乱…す…」
雲雀さんはそう言いながら、前屈みになっている。
『そーなのな!野球部の奴らがくれたから、着てるだけなんだけどなー…クリスマスだけしか着れねぇと思ったから……部室では、皆から似合うって言われたんだけどなー♪…着替えた方がいいか?』
「「「駄目だーっ!」」」
俺もリボーンも獄寺君も六道骸も言い出しっぺの雲雀さんさえも、山本の言葉を否定した。
今日一日は、着替えなんて絶対にさせないよ!
ああ、普段は、俺や獄寺君から山本を離れさせようと、ムカつく事ばかりな野球部員…今だけは、感謝するよ!
でも、俺達より一足先にレディサンタ山本を拝んだなんて…!
しゅうううぅ〜………突然、六道骸が消え、クローム髑髏が現れた。
『髑髏?どーしたんだ?』
「クローム髑髏!…って、骸はどうしたの?」
六道骸から、入れ代わったクローム髑髏は、もじもじしながら呟く。
「あの、ボス……骸様は、あと10分もしたら戻られるそうです」
六道骸…きっと、俺や獄寺君が鼻血を流したり、雲雀さんが前屈みになってるように、一人ゴソゴソとやってるんだ。
山本のレディサンタ姿、可愛いからなぁ…ティッシュ、一人一箱は要るよなぁ。
『はい、この箱の中の三角クジを引くのな!』
一人一人に、小さな箱を差し出し、クジを引かせる山本。
ミニスカとロングブーツの間の生足に、自然と目が行く。
皆、自分の前に山本が来ると、鼻の下が伸びてるよ。
あ、俺もか。
ガサガサ…各々で三角クジを開き、山本からのプレゼントに心踊らせる。
「おっ!俺は山本とイヴを過ごせる権利だ」
「「「なっ!」」」
リボーンが誇らしげに言う。
このレディサンタ山本とイヴを過ごす…くそっ!
「今日はずっと、このレディサンタの恰好でいろよ!」
『ははっ!小僧は、サンタの服が好きなのな〜』
笑っている山本の肩にひょいと乗り、口の端を上げ俺達を見下すリボーン…部屋の温度が一瞬、5度ほど下がった。
「あ、俺は12月25日、丸一日、山本と居られる権利だっ!」
獄寺君が嬉しそうにガッツポーズをとる。
「チッ!」…自然と舌打ちしてしまう。
「おい!野球馬鹿!明日も一日、その服装でいろ!」
どさくさに紛れ、山本の肩を掴む獄寺君に、リボーンの銃口が向けられたのは、言うまでもない。
「…僕のは、12月30日に丸一日一緒にいる権利、と書いてあるけど、何?コレは」
『あー、それは、野球部が26〜29日まであっから、30日からOKって事なのな!』
「アハハ!雲雀さん、30日は山本と大掃除したらイイですよ!」
「沢田………君、咬み殺されたいの?」
『雲雀!応接室の掃除なら付き合うぜっ!』
純粋に雲雀に言う山本。
うん、雲雀さんは山本と、年末大掃除して過ごせばイイよ。
「山本、君には裸エプロンで応接室掃除してもらうからね」
「「「ちょっと待てー!」」」
そして、俺が引いたクジはというと。
「やったぁ!」
『ツナのはなんだ?』
「大晦日に山本と過ごせる権利だよ!」
『ははっ!紅白一緒に観て、年越そば食おうな!』
「うん!その後は初詣でに行こうね!」
俺はなんてツイてるんだろう!
雲雀さんなんか、トンファー構えてこっち睨んでるし……ああ、獄寺君、初詣でには君も誘ってもらえると思ってるでしょ?
悪いけど、君は誘わないよ。
リボーンさえもね!
「あの…ボス。私が引いたクジなんですけど」
すっかり忘れていたクローム髑髏が、ぼそぼそと言う。
「1月1日に山本武と過ごせる権利なんですが…」
「はあっ?!」
しゅうううぅ〜…一人、ゴソゴソと引きこもっていた六道骸が、中身が残り少ないティッシュの箱を片手に復活した。
「クフフ…武、初詣でへは僕と一緒に行きましょう。ええ、もちろん二人きりで」
『えっ?』
骸に手を取られた山本は、ほんのり頬を赤らめている。
ちょっとちょっと!何、イイ雰囲気になってんの!
手を握られてる山本も、そんなガビガビした手を離しなよ、汚いってば!
「初詣での後は、火燵でミカンでも食べながら、年賀状を楽しみましょう…そして夜は、姫始めですよ!クハハハハハ!」
姫始めって、アンタ何てコト言ってんの!
リボーン、こんなコト言う六道骸を撃ち殺しちゃってよ!
獄寺君も、ダイナマイトぶっ放してイイからね!
雲雀さん、お得意のトンファーで血まみれにしてやってよ!
『んー?姫始めって何だ?』
「年明けに、たっぷりぐっしょり教えてあげますよ…クフフ」
俺の死ぬ気の炎は、人生最大級になり、我が家は修羅場のクリスマスパーティーとなった。
ああ、山本…真っ赤でキュートなレディサンタ姿の君が、爆音と血の臭いと共に薄れて行く。
最後に、チラッとスカートの中が見えた気がした……。
END