小説

□十二月の寒い夜は
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身体の芯まで冷たくなる、小雪が舞い散る十二月の夜。
こんな日は部屋を暖めて、愛しいこの子と寄り添っていたい。



『骸!……骸っ!』
「武」
『骸っ…行くな!』

汗ばんだ顔。
荒い呼吸と、頬を伝う涙。
「武、僕は此処にいますよ」
『あっ、あぁぁ……骸!』
愛しい子の手を握りながら、額の汗を拭い去る。
手首が激しく脈打つ。

『骸……大丈夫か?傷は…』
「僕は大丈夫ですよ」
『でも、眼が…』
「怪我なんて負ってません」
『うっ……右眼。…本当に、なんともないのな?』
「ええ、僕はいつでも大丈夫です」


僕の手を力強く握りしめ、口許に寄せる。
瞳を閉じながら、自身で呼吸を整え、息を吐く。


「落ち着きましたか?武」
『はぁ……ん、大丈夫。骸がなんともないなら、俺も大丈夫』
「悪い夢を見てたのですか?」
艶やかな髪に指を絡ませ、額にキスを落とす。
こんなにも愛しいこの子の苦しむ顔なんて、見たくありません。


『骸が……骸が悪い奴に刺されて、血がたくさん出て…』
「僕がですか?」
コクリと頷き、震えるその手で僕の手を強く握り返す。
『骸、すげぇ強ぇのに、負けるわけなんてねーのに……』
「夢の中での僕は、その悪い奴に刺し殺されたのですか?」
そう言うと、ふるふると首を振り、キッと口を結ぶ。
『殺されちゃいねーけど、右眼を刺されて……綺麗な、大事な、俺の大好きな眼なのにっ…』
そう言いながら、また涙を流す。


『俺っ、骸を助けたいのに、護りたいのに、何も出来なくてっ…』
「武、僕は貴方の目の前で、刺されたり殺されたりもしませんよ」
『本当に?』
「ええ、僕は貴方が思うよりも、ずっと混沌とした世を渡り歩いて来ましたから……簡単に刺されたりなんてしません」
『絶対なのな?』
「勿論、殺されたりもしませんよ」
『…ん、骸の言ってる事、信じる』


シーツに涙を染み込ませながら、僕を見上げて笑う愛しい子。
『骸』
「なんですか?武」
『俺、骸を護れるように強くなる』
「貴方は充分、強いと思いますが?」
『ダメなのな、今のままじゃダメなのな……全身で、骸を護れるようにならなきゃダメなのな!』
「武…」
『俺、強くなるから…』
僕の首に腕を回し、力いっぱい抱きしめてくれる。
「武……」


貴方が苦しむ夢を見ないよう、僕は誰にも倒されません。
五年後も、貴方が笑顔でいられるようにいます。
十年後のこんな寒い日にも、貴方と暖かさを分かち合えるように……。



END

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