小説

□うさぎの耳を作って、今すぐ着けてみよう!
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「……やっぱり、無くなっている」
僕の引き出しから、数枚の厚めな紙とハサミが無くなっている。最後に使ったのは、いつだったっけ?
「ねぇ、草壁…机の上のセロテープが丸ごと消えてるんだけど、知らない?」
応接室の窓拭きをしていた草壁は、手を止めて、僕の方を向き、答えた。
「さぁ…自分は雲雀さんの机の物はいじっておりませんが」
そうだよね。草壁は僕の机を拭いてはくれるけど、勝手に机の上の物を使ったり移動させたりはしない。
「あの…何か紛失している物でも?」
草壁は僕の顔色伺うように尋ねる。
「うん、セロテープが台ごと無くなっているし、引き出しから紙とハサミが無くなっている。」
「え?…では、何者かが、この部屋に侵入して、それらを盗って行ったと?」
「…そうゆう事だね」
僕専用の応接室。僕の次に出入りする草壁さえも、いじってない机の上や引き出しの中の物の紛失。僕のテリトリーに侵入し、物を盗って行くなんてイイ度胸じゃないか。
「雲雀さん、さっそく犯人捜しをしましょう!」
草壁は、窓拭きを中断して、侵入者捜しを開始しようと意気込んでいる。
「そうだね…」
僕も捕まえた犯人をメッタ打ちにしようと、愛用しているトンファーを磨き始めた。

「あ」

草壁が、急に間抜けな声を上げた。
「どうしたの?」
間抜けな声を上げたまま、閃いたように、ポンと右手の拳を左手の掌に叩いて頷く草壁。
「そうでした!自分がこの応接室を掃除していて、廊下の水道に雑巾を濯ぎに行って、戻って来たら山本武が居て…」
2−A山本武・野球部所属。姿を見る度、誰かしらと戯れている草食動物。
「ふぅん…山本が?それからどうしたの?」
「自分が掃除をしている間、山本はそのソファーに座って、たわいもない話をしていて…」
「へぇ…君と山本、仲が良かったんだ」
「ち、ちがいますよ!山本が一人で喋っていただけです!」
草壁は何故か、僕の言葉にわたわたと焦っていた。山本武は最近、僕がこの応接室に居る時間帯を狙うかのように、ちょくちょく顔を見せる。群れる事が大嫌いな僕にお構いなく、応接室に入って来てはくだらない話しをして行き、去って行く。今日の相手は僕ではなく、草壁だったという事だね。
「『雲雀がいねぇのなら帰る』…と、帰って行きました」
「ねぇ…その時、山本武は鞄を持っていた?」
草壁は眉間に皺を寄せ、その部分を摘むように考える。
「確か…山本は鞄を持っておりました」
「じゃあ、あの子が犯人だね」










『ハハハ!ツナ、すげぇ可愛い!』
「山本〜……なんでこんな恥ずかしい事、俺にさせんの?」
『いいじゃねーか!似合うし可愛いし!』
やっぱ、ツナにうさぎの耳を着けたら可愛いのな!獄寺にも早く見せてぇのに…アイツ、何やってんだろ?また、校則違反や授業態度が悪くて、担任にでも呼び出されんのか?
「山本ぉ…コレ、いつまで着けてなきゃいけないの?」
『ん〜?そりゃ、獄寺が来るまで!獄寺が来たら、アイツにも着けてやろうっと♪』
「山本〜…」
俺は、チョキチョキとハサミを動かして、獄寺用のうさぎ耳を作り始めた。やっぱ、雲雀の応接室からハサミや厚紙やセロテープを借りて来て、良かったなぁ…すげぇ楽しい。今日は天気イイし、部活も休みでツナ達と一緒に帰れるし…こうして放課後の屋上で遊ぶのも、たまにはイイな。それに、俺は意外に器用だ!だって、こんなに上手くうさぎの耳が作れるんだぜ!



「十代目ー!お待たせしました!…っ、えぇ?」
ようやく屋上に来た獄寺は、ツナを見て、目をまん丸くしていた。
『よぉ獄寺!このツナ、可愛いだろ?』
「か、か、可愛いで……じゃなくて!何でこんな恰好してるんすかっ?」
『ん〜?うさぎ耳ごっこなのなー』
獄寺は興奮したまま、ツナを見つめ、俺の尊敬する十代目が…尊敬するお方がこんなに可愛くなられて…と、ブツブツと独り言を言っていた。俺は、そんな獄寺の後ろから、そっと奴の頭に、うさぎ耳をくっつけた。
「なにすんだっ!この野球馬鹿っ!」
俺を振り向いたうさぎ耳な獄寺…あ、やっぱ似合うじゃねーか!
「わぁ…獄寺君、凄く似合うよ、うさぎ耳!」
『なっ?なっ?二人とも似合うだろ?』
「…なんか、獄寺君、駅前商店街の外れにある店の看板の女の子みたいだよ!」
『ああ、あのイメクラみてぇな店の看板の…』
「ウチの父さん、あの店の名前の入ったライター持っていて、母さんが呆れてたよ…ハハハ」
『なんか、すげー面白ぇなあ!ツナの親父さん』
「二人して、なんちゅー会話してるんすかっ!」
俺は、ツナと獄寺にうさぎ耳を着けて、自分の目に狂いはなかった…やっぱ着けて正解!と思った。
「この馬鹿っ!俺にまで、んなモン着けて、どうゆうつもりだっ!」
『ハハハッ!雲雀んとこに寄ったら、紙やハサミが有ってよ…なんか、工作したくなったのな!』
「えっ?もしかして…この厚紙やセロテープって、雲雀さんの応接室の物なの?」
「テメー!雲雀んとこから盗んだ物で、十代目と俺にこんな事してんのかっ?!」
『人聞き悪いなぁ…盗んでねぇって!借りただけだって』
「「山本ー!」」
『ツナ、写メっていいか?』
「テメー!話し聞いてんのかっ!」
『あー、動くなって!』
俺は、興奮するうさぎ耳な獄寺と、そんな獄寺を窘めるうさぎ耳なツナを写メった。二人とも可愛いのなー。ツナに写メを見せたら、真っ赤になっていた。
「おい!この野球馬鹿っ!おめーも着けてみやがれ」
『え?』
獄寺は、俺とツナが写メを見ている間に、うさぎ耳を一つ作っていて、俺の頭に着けて来た。
『うわっ…俺はこうゆうの似合わねーってば!』
急いで、頭からうさぎ耳を外そうとしたら、獄寺に両腕を掴まれた。
「テメーだけ逃れようったってダメだぜ!十代目、早く写メを!」
『えぇっ?』
「うん、すぐ撮るよ!」
獄寺に両腕を押さえられ、うさぎ耳を着けたまま、俺はツナに写メられちまった。
「どーだ!参ったか!」
「アハハ!山本も可愛いよ!ね?獄寺君」










山本武と他二名が、放課後に立ち入る事を厳禁としている屋上で群れていると報告があり、僕は屋上へ繋がる階段を登って行った。応接室から盗って行った厚手の紙やハサミ、セロテープで、一体何をしているんだろう?


ドアをそっと開け、奴らに気付かれないように、物陰から様子を伺う。
「………」
山本武と他二名は、頭に何か白い物を着け、はしゃいでいた。
「………」
あの頭に着けているのは、耳?…犬の?いや、兎の耳だ。僕は、目の前の光景に難色を示しながらも、盗られた応接室の物を取り返すべく、馬鹿みたいに戯れてる三人に近付いた。
「…ねぇ君達、なにしてんの?」
『おう!雲雀』
とりあえず僕は、兎の耳を着けた三人に話し掛けた。
「あわわ…雲雀さんが来ちゃったよ!」
「この野球馬鹿っ!雲雀が追い掛けて来たじゃねーか!」
『あー…ハサミとか、返しに行くから。な?』
何なの?この子達は…群れている上に、兎の耳なんて着けて。僕の応接室から盗って行った物で遊んでたっていうの?…というか、中学生男子が、兎の耳を作って、しかも頭に着けて遊ぶなんて聞いた事ないよ。こんなくだらない事やってる奴らなんて見た事もない。

「咬み殺す!」

『わー!雲雀、待てって!』
「ズラガリましょう!十代目!」
「あ、うん!逃げよう、山本!」
『ハハハッ!後で借りた物、返しに行くかんな〜』
俺とツナと獄寺は、ダッシュで屋上から逃げた。雲雀に捕まんねぇように、ひたすら走って走って…昇降口まで来た。
「とにかく、靴履いて学校から出ましょう!」
「そうだね…帰っちゃえば、とりあえず今日は安心だね」
俺達は、上履きを靴に履き変え、急ぎ足で学校を後にした。
『…やっぱ、黙って雲雀の物借りて来ちまったから、雲雀の奴、機嫌損ねちまったのかなぁ?』
「当たりめーだ!この馬鹿っ!」
「それに、三人で居たから尚更だよね」
『雲雀って、大勢の風紀委員会仕切ってるのに、何で群れるのが嫌いなんだろうな?…あっ!』
「どうしたの?山本…」
『うさぎの耳が無くなってる!』
俺は、ツナと獄寺の頭から、白いうさぎ耳が無くなっているのに気付いた。自分の頭も触ってみると、無くなっていた。
「屋上から階段を降りてる時にでも落としたんだろ?」
「アハハ…すごい勢いで走っていたからね。俺達」
『二人とも似合ってたのに…つまんねぇのなー』俺はちょっと残念だったけど、写メでしっかり画像を保存したから、イイか。携帯を取り出し、データフォルダを開き、ツナと獄寺と…自分のうさぎ耳の写メを見た。
「その写メ、どうする気だ?」
獄寺は、俺を睨みながら聞いて来た。
『ん?俺のコレクションにするのなー』
「恥ずかしいから、他の人に見せちゃだめだよ!山本っ!」
「つーか、今すぐ消せ!この馬鹿っ!」
ツナも獄寺も何を焦って怒ってるんだ?可愛いから、親父にも見せてぇのに…でも、ツナ達がそこまで言うなら。
『ん!わかったのな!俺だけで見るのなー』
「あ、山本と獄寺君の画像、俺の携帯に写メールして!」
ツナは、さっきまでとは違う事を言い出した。
「十代目ぇ……山本、俺の携帯にも、十代目の画像を送れ!………お前の画像も送ってもいいぞ」
獄寺まで。
『なぁんだ、お前等、やっぱうさぎ耳気に入ってんじゃん!』










次の日、俺は借りた物と親父お手製の豪華な鮨詰めを持って、雲雀の応接室を訪ねた。雲雀は、俺を無視したまま、書類みてぇな物を書いていて、口を聞いてくれなかった。
『勝手に借りちまって悪かったな…寿司、良かったら食ってな!』
こんなんじゃ許してもらえないかもしれないんだろうな……まあ、しゃあない。俺が雲雀の机に鮨詰めを置いて教室へ帰ろうとしたら、声を掛けられた。
「ねぇ、このお寿司、すぐに食べるからお茶を入れて」
『雲雀…』
「聞いてた?」
『ああ!すぐに入れっかんな!』
俺は、小さな棚に入っているお茶セットを出し、茶葉を計る。俺、お茶入れるのも上手いんだよな。
「君さ、昨日のああいう耳を着けながら、お茶を運んでくれない?」
『へ?』
お茶をお盆に乗せ、持って行こうとしたら、雲雀から要望を出された。
「そうしたら、すべて許してあげるよ」
『あ、うん…わかったのな』
俺は、ハサミでチョキチョキとうさぎの耳を作り、自分で頭に着け、雲雀にお茶を運んだ。
『お待たせしたのなー』
ウェイトレスみてぇにお茶を運んだら、雲雀は俺をジィッ…と見て、呟いた。
「可愛い…」
『雲雀?』



なんか、雲雀もツナみてぇにおかしな事言ってる…あ、雲雀にもうさぎの耳、着けてみようか!



『雲雀〜!お前もこのうさぎ耳を…』
「却下!」



俺が話しを持ち掛ける前に、打ち切られてしまった。雲雀も着けたら、絶対可愛いのにな…残念なのな。



ま、寿司食って機嫌も直るだろうから、昨日の事は、もう許してくれたんだな。さっき、全て許してくれる…って言ってたし。



「君さ、応接室へ来てもいいから…そうだな、応接室に居る時は、その兎耳を着けていなよ」
『…まあイイけどよ。んじゃ、雲雀も一緒に着け…』
「だから、却下!」



END

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