小説

□夢はおいてませんか?
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カチカチカチカチ…俺の部屋に、何分もシャープペンの音がしている。そして、目の前には一枚の数学のプリント。穴が開くんじゃないかってくらい見つめながら、一つでも問題を解かなくちゃ…と焦っていた。でも、俺の皺の少ない脳みそは、プリントに印刷された数字をどうにも動かす事が出来ず、ただただ焦っていた。獄寺君が「簡単で、答案用紙をせめて半分くらいは埋められる問題ばかりですから!」と、俺と山本用に作ってくれた数学のプリント。カチカチカチカチ…と続くシャープペンの音の方を見る。
「…山本、プリント埋まった?」
『埋まらねぇ…ツナは?』
「全然埋まらないよ」
『ヤベーな…もう、獄寺が帰ってきちまう』
中間考査を控えた俺達は、獄寺君の指導の元、俺の部屋でテスト勉強をしている。シャープペンをカチカチといじるのを止めた山本が口を開く。
『獄寺の奴、プリント終わってなかったら怒るよなぁ』
「うん…怒るってゆーか、ガッカリするんじゃないかな」
俺と山本の勉強があまりにも進まず、精神的に疲れたであろう獄寺君は「コンビニへ行って飲み物でも買って来ます」と30分くらい前に出て行った。俺達に勉強を教えながら、かなりイライラしていたみたいで、山本に怒鳴りながら煙草を何本も吸っていた。
『はぁ〜…疲れた!俺、もうダメだ…牛乳飲まねぇとやってらんねぇ』
山本はそう言いながら、ゴロリと寝転がった。
「あはは…もうそろそろ獄寺君が帰って来るから」
『喉渇いたし、口が淋しいのなー』

寝転がったまま、ぺろりと上唇を舐める山本。

あ、こうゆう山本って、ちょっとエロいんだよね

俺もちょうど喉が渇いたし、目の前に美味しそうな唇が転がっていたから……仰向けになっている山本に覆い被さりキスをした。

『んー…少し、口ん中が潤ったかも』
「俺も」
山本の舌に俺の舌を絡めると、ほんわりあったかいとか、柔らかいとか…うっとりしてしまう。
『キスすんの、久々じゃね?』
「そうだね。最近、山本は部活ばかりだったから、一緒に帰れなかったし土日も遊べなかったね」
『やっぱ、ツナとキスすっと気持ちいいし、安心するのな!』
「俺、毎日、山本とキスしたいよ」
『ハハハッ!大人になって一緒に暮らしたら、毎日出来んじゃね?』

ドサッ!

「…二人で何してんすかっ?」
「獄寺君!」
『獄寺、お帰り〜!』
ドアの方を見ると、コンビニの袋を床に落とし、ボー然とする獄寺君が居た。
「俺が買い物に行ってる間、二人でいちゃついて!…って、プリントはやったんすか?」
寝転ぶ山本と、彼に覆い被さった俺を見た獄寺君は、わなわなと震えていた。
「あはは…ごめん。プリントはまだ埋まってないんだ」
『まあまあ、獄寺!喉渇いたから牛乳…』
「うるせぇ!お前に飲ませるモンなんてねぇよ!」
コンビニの袋に手を伸ばそうとした山本に、獄寺君は猫が威嚇するように、殺気立っていた。
『そう怒ってもしょーがねぇだろ?な?俺もツナも、お前の事、待ってたんだから…』
山本はそう言いながら、立ち上がり、自分から獄寺君にキスをした。

「!…てめー…」
『落ち着いたか?』

ニッコリしながらコンビニの袋を床から拾い上げ、獄寺君が買って来てくれた飲み物や菓子をテーブルに並べる山本…なんか上手い。うん、獄寺君の扱い方が凄く上手いよ。

『なあなあ、ツナ、さっきの話しだけどよ…』
「うん?」
『大人になって、俺等、それぞれが稼ぐようになって、三人で暮らしたら、毎日毎日キス出来るよなー』
「三人で同棲って事?」
菓子を摘みながら、山本はご機嫌な口調で話す。
『そう!同棲するのな!』
「…いいかも!その頃には、キス以上の事も…ねぇ、獄寺君」
憮然と缶コーヒーを飲む獄寺君に、俺は同意を求めた。だけど…。
「………」
『獄寺?』
「あのっ…獄寺君、俺達、変な事言ってた?」
缶コーヒーをゴクゴクと飲み干し、ダンッ!とテーブルに置いた獄寺君は、俺達を見て言った。
「将来の夢を語るのは結構ですが、大人になるまでこのプリントくらい出来るようになって下さい」

『「はい…スミマセン」』

獄寺君の一言は、キスして浮かれていた俺と山本を、一気に現実へ戻してくれた。



夢を叶えるには、努力が必要…なんだよね。


END

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