小説

□猫耳休暇
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十年に一度、起きてしまう不思議な事…本当に本当に不思議な事。









『なんで、こんなもんが俺にあるのかなぁ…』
皐月晴れの日曜日、俺は一人、とある一室の壁に掛けられた全身を写す鏡を見つめ、溜め息をついた。

『ありえねぇよな…』

鏡に写る俺の頭に耳が…耳が生えてるなんて。

しかも動物の…猫みてぇな耳が、俺の頭に生えている。手を伸ばし、頭部の猫のような耳を触ってみると、柔らかい毛に覆われていて、本当に猫みてぇだ。
『朝起きて、いきなり耳が生えてましたって、ありえねぇだろ!…ってゆーか、こうゆうのって確か…』
確か、俺が幼稚園くらいの時にもあったよな。親父もびっくりしてたけど、俺を外に出させない以外は普通に生活させてくれていたような思い出が…あの時は、数日幼稚園を休んで、家ん中で過ごしていたよなぁ。「この事は皆には内緒だ」と何度も念を押されたっけ。



「よう!山本!」
『ひっ!…って、ツナの親父さん!』
いきなり部屋のドアが開き、俺は頭のてっぺんを両手で押さえた。ツナの親父…沢田家光さんが入って来た。工事現場で働く人のような繋ぎ服に軍手を嵌め、ヘルメットを被り、地面を掘るような道具を担いで…その恰好で、このホテルに入って来たら目立つんじゃ?と俺は漠然と思った。
「ほぉ〜…久々に見たなぁ。お前の猫耳!」
『へ?…家光さん、俺のこの耳の事、知ってんすか?』
「そりゃ知ってるさ!十年前にも…そう、こんな赤い毛並みだったな」
そう言いながら、家光さんは軍手を外し、俺の頭を撫でた。
『んっ…耳も触られるとくすぐったいのな!』
「ハハハ!本当にお前の頭から猫の耳が生えてるって証拠さ」
『…やっぱ、これって猫の耳っすかねぇ?』
「うん。どう見ても猫の耳だろう?」
俺は、また鏡を見ながら、この不思議な現象に顔をしかめた。
「おっ!尻尾も生えてるじゃねーか!十年前と全く同じだなぁ」
家光さんは、俺の腰から生えている尻尾にも触って、笑っている。
『やっ…尻尾はもっとくすぐったいのな!』
「十年前よりは長いか」
尻尾を触りながら、また昔の話しをするから、俺はとても気になって尋ねてみた。
『あの…十年前、俺に今みてぇな耳や尻尾が生えた時も家光さん、俺ん家に居たんっすか?』
「ああ、あの時はお前の親父の剛に呼ばれて、山本家へ駆け付けたんだ。剛も焦っていてな…落ち着かせるのに苦労したぜ」
家光さんは懐かしむように話してくれる…うん、普通、自分の子供にいきなり猫の耳と尻尾が生えて来たら、どの親も慌てるよな。
「まあ、医者に見せたとこで町内がパニックになるし、山本一家が見世物になるって事で、とりあえず俺の外国にいる知り合いの医者に連絡してよ…なかなか無い事例だけど、数日で元に戻るから安心しろって言われてな」
『へぇ〜…だから、親父は家ん中で普通に生活させてくれていたんだ』
「ま、あの頃はお前ん家の[竹寿司]も、職人雇ってなくて家族だけでやっていたから、猫耳生えても家に居させたが、今回はさすがにな…」
『そうなんっすよ!俺、この耳や尻尾、帽子やロングコート着て、ウチの職人さんに気付かれないように家を出て来たんすよ!』
今朝、起きたら猫みてぇな耳と尻尾が生えていて、パニクる俺を見た親父は“誰か”に電話をした後「これを着て…あとこの帽子も被ってけ!」と、自分のロングコートを俺に羽織らせ、帽子を被せた。「今から並盛駅前のビジネスホテルへ行くんだ!」と、俺は裏口からそっと出された。『…俺、中学生だからホテルに一人でなんて泊まれねぇ!』と言ったけど「大丈夫!家光がお前を匿ってくれるから安心しろ!」と、親父に笑顔で見送られた。



『耳とか…帽子とコートで隠さなくちゃならねぇし、親父の物だから俺が着ると変だし…焦ってたし、超恥ずかしかったっすよ!』
「ハハハ!まあ、無事に此処へ辿り着けて良かったじゃねーか」
『はい……でも、俺がすんなりこのホテルに入れたのって、どうしてなんすかね?』
「そりゃー、お前の親父が裏に手ぇ回して…」
『裏?裏ってなんすか?』
俺は『?』と首を傾げた。
「あ、いや、…このホテルのオーナーと俺達は知り合いで、剛が宿泊の手配をしたまでよ」
『へぇ〜…親父って顔広いのな!』
「そうそう、剛の[竹寿司]は地域密着な寿司屋だからな。このホテルのオーナーも常連なのさ」
家光さんが、途中で話しを変えたような気がしたけど、親父が俺の為にしてくれた事だから、まあ大丈夫だよな。こうして、家光さんも俺に付いていてくれるし。頭ん中がごちゃごちゃしていたけど……急に肩の力が抜けホッとした俺は、その場にぺたりと座り込んでしまった。
「おいおい、大丈夫か?」
『ハハッ…なんか安心したら気が抜けちまって』
「だよな…」
家光さんは座り込んだ俺を、そのままギュッと抱きしめてくれた。
『あ…のっ////』
「お前が元に戻るまで、俺が居てやるから…一人にはしねぇよ」
家光さんが抱きしめてくれると『俺は守られている』と素直に思った。親父より年下だけど、同級生で親友のツナの父親だから、大人として俺を守ってくれる。そう思いながらも『自分の親とは違う』。

俺は、いつの間にか家光さんの背中に手を回していた。










「ぴったし十年毎に生えて来るな…その耳と尻尾は」
俺と家光さんは、日本に有る彼の[隠れ家]とやらに居た。二人きりの空間…家光さんは、十年振りに生えた俺の猫耳と尻尾を眺めながら関心していた。俺はこの不思議で迷惑な現象の為に、一週間の休暇を貰った。
『ハハッ…これで三度目っすよ。もうこれっきり生えて来なくていいっすよ』
「そんな事…三十路のお前にも生えてほしいもんだぜ」
ニヤニヤしながら、俺の尻尾を撫でる振りをして、尻を撫で始めた。
『…今24歳の俺でも、恥ずかしいし情けないんで、さすがに30越えたら…はっ…あ、ん』
「普段のお前も可愛いけど、猫耳なお前といると犯罪者な気分になるな…昔、流行ったよなぁ!そうゆう猫耳着けたメイド服着た女の子が、ご主人様!とか言う店が」
『犯罪者…って、家光さん、14歳の俺に手を出した十年前に、既に犯罪者でしたよ?』



四歳の頃から、何故か十年毎に俺に生える猫のような耳と尻尾…それらを隠す為に、元に戻れるまで身を隠しての生活。十年前、この不思議な現象が再び起きた時、ずっと側で守ってくれた彼に俺は……ココロとカラダを愛し愛される事を教えてもらった。
「あの時、誘っていたのはお前の方だったぜ?」
『そんな事…14歳のガキが出来る訳ないっすよ…あ、んっ』
唇を重ね、角度を変えながら舌を絡ませる…身体を合わせながら、俺は彼の背中に手を回す。
「十年前のお前は、そうやって俺を誘ったんだぜ?」
『家光さんが、俺に誘うよう仕向けたんじゃないですかっ…はぁ…ん、あ』
上着を脱がされ、胸に舌を這わせられると、俺の肌はピクンと反応してしまう。俺も彼の服の上から下腹部を撫でると、勃ち始めているのが判る。
『…相変わらず元気っすね』
「ん〜?絶倫オヤジって言いたいのか?」
『絶倫って……自分から言っちゃあダメっすよ!ハハハッ』
「言ってくれるぜ…」
俺は、彼のズボンのベルトを外し、下着を下ろし…ペニスを口に含んだ。
『んっ…ん、はぁ…んっ』
「お前も、相変わらず上手いな…」
部屋に染み入る濡れた音が二人を興奮させる。俺は、彼をまずは口だけでイカセたくて、舌で舐め上げた。
「…くっ!」
口の中に出されたモノを俺はゴクリ…の飲み、彼を見上げる。
『家光さ…ん』
「武…」
服を全て脱がされ、ベッドに押し倒された俺は、首筋や胸、内股にたくさんキスをされ、普段は無い猫耳や尻尾も撫で回され、焦らされた。
『ぁ…あぁあんっ』
俺は自分の勃ったモノを彼の身体に押し付けながら、早く挿れてほしい…と合図した。
「脚、開け…」
彼はそう言いながら、俺のアヌスにローションを塗り、解し始めた。四つん這いになって…俺は本当に猫みてぇだ。
『んっ、つっ…あ…ん、ぁあ』
挿れられる指の動きに堪らなく、俺は腰を振ってしまう。
「尻尾もイイ感じで揺れてるぞ!ハハハ」
『家…光さん、そんな事言われたって…やぁああ、んっ』
増やされる指の数と、突かれる前立腺…俺は家光さんのからかいに答えながらも、喘いでしまう。
三本の指が一気に抜かれ、呼吸を整える間もなく、彼のペニスが挿って来た。
『あぁあっ…はぁ、ひぁぁあんっ!』
卑猥な水音が二人の密接した部分から聞こえる。
「猫耳だと、このヤッテル最中の音も一段と良く聞こえるのか?」
彼はそう言うと、俺の猫耳をくりくりと弄りながら耳元で囁いた。
『家光さん、意地悪…っすよ……あぁぁぁぁん』










『耳と尻尾…一週間経つけど消えないっすよ』
「そーだな…もうしばらく、この部屋で俺といちゃつけって事だな。うん」
『“うん”じゃないっすよ!仕事に戻れないじゃないっすか!』
俺は、一週間経っても消えない猫耳と尻尾に頭を抱えた。
「…もう一週間、休暇を延長すれば良いじゃねーか?」
『そちらは良いかもしれないっすけど、ウチは無理!…ツナ達に嗅ぎ付けられちまうっ』
「あー…ツナは俺とお前が会ってるのが、昔から気に入らねぇみたいだからなぁ」
『家光さんと一緒の休暇延長がバレたら、俺、ツナに監禁されちまうっ』「監禁!さすが俺の息子…って、お前、ツナに監禁された事あるのか?」『…ありますよ。ツナ、嫉妬深いし』
「そうか…んじゃ、二人で別の場所へ逃げよう!」
『えっ?』
「そうと決まれば…早く支度しろ!」
家光さんは、俺に声を掛けながら、テキパキと服を着て荷物を纏める。
「ほら!」
俺に帽子を被せ、ロングコートをばさりと肩に掛けた。
『今度は何処へ?』
「無人島」
『………』
俺は渋々コートを羽織り、荷物を持って彼に着いて行った。この猫耳を隠す帽子もロングコートも、親父の物ではない。ちゃんと俺の手持ちのスーツに合う帽子とコート。五月に着るには少し暑い帽子とコートだけど、猫耳や尻尾を隠して[無人島]へ行くには仕方がない。
「パスポート、持ってるよな?」
『…海外へ?』
「そ!海外の無人島へ」



電車に揺られ、外国へ飛ぶ飛行機がある空港へ向かうと言う。俺は一分一秒でも早く、この猫耳と尻尾が消えて無くなれば良い…と切に願った。チラリ、と家光さんを見ると、胡散臭い世界地図を広げ、何処へ行こうか…とニヤニヤしていた。
『この耳、空港で確実に引っ掛かりますよ』
「耳が無くなるまで、空港近くのホテルで泊まってればいいさ」
さっきまでの無人島への目的が、なんだか微妙に変わってねぇか?
『はぁ…』
俺は溜め息をつくしかない。



どうか、俺のファミリーと彼の組織の人間が追ってくる前に、この不思議で迷惑な猫耳と尻尾が消えて無くなりますように…。



そして、十年後には絶対に生えて来ませんように!



電車から見えるのは、俺の不安なんて消し去ってくれるかのような、長閑な皐月晴れの風景だった。そして、俺と向かい合い座る家光さんは、初夏の爽やかな陽気と電車の心地良い揺れの中で、いつの間にか気持ち良さそうに眠っていた。



END

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