小説

□ガススタコーヒーショップ
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休日の夕方、バイクにガソリンを入れる為にスタンドへ立ち寄った。
「暑いな…」
喉が渇き、ガススタに隣接するコーヒーショップに入ってみると、店の中央にある、ぐるりと円を描いたテーブルに、草食動物・山本武が居た。
『よっ!ヒバリ!』
「………」
片手を上げ、ニコニコと僕に挨拶する。彼をぷいと無視し、アイスコーヒーを注文して受け取り、僕は席に着こうとした。
「………」
『ヒバリ!ここ、空いてるぜ!』
生憎、席はほぼ満席状態で、山本武の隣の席しか空いていなかった。自分の隣の空いている藤の椅子を引き、僕に座るよう促す山本武…君とは親しい間柄じゃないんだから、馴れ馴れしくしないでほしいね。
『ヒバリは、このガススタによく来るんだってな!』
「!?」
何で、君がそんな事知っているの?
『へへっ…俺が何で知ってるか?って、顔してるのな!』
「………」
ああ五月蝿い。僕は喉を潤しに来ているんだから、黙っていなよ。
『ヒバリがここのガススタで、よくバイクにガソリン入れに来るって、笹川兄が教えてくれたのな!』
「そう…」
笹川了平、余計な事をこの草食動物に吹き込んでくれたね。僕は、一人でゆっくりとしたかったのに。
『俺、ランニングでこの辺通る事、多いのな。でも、このコーヒーショップには入った事なくてよ…』
「ふぅん…」
君のグラスには、もう氷しか残ってないじゃないか。おしゃべりはもういいから、早く帰りなよ。周りの客も、次々と帰って行くじゃないか。
『笹川兄に、ヒバリが来る時間帯を聞いて、なんとなく寄ってみたら、ヒバリに会えた!俺、初めてこの店入ったのに、ずげぇよな!』
「………」
何がどう凄いのか、僕にはさっぱり解らないよ。どんぴしゃり!、と得意になって笑っていて…ガキっぽいったらありゃしないね。店内は、徐々に客が居なくなり、店員以外は僕と山本武だけになった。
『なあ、今度、お前と笹川兄と俺とで、この店で茶ーしようぜ!なっ?』
「嫌だよ」
どうして今以上に群れなくちゃいけないんだ。僕は、アイスコーヒーを飲み干し、席を立った。
『ヒバリ…』
しゅん…とした君の声が聞こえる。これだから、草食動物は。
「…来週のこの時間帯に、また来ると思うから。でも、群れるのは嫌だから、君一人でおいで」
『!』
「じゃあね」
何故か僕は、次に自分が此処へ来る事を山本武に告げていた。
『ヒバリ、また来週な!』
嬉しそうな彼の声が僕の背に届いた。みっともないから、そんな大声で言わないでほしい。



来週もまた、草食動物のおしゃべりに付き合う…と、僕の頭の中のスケジュール表に書き込んでおこう。

それまでに、高騰しているバイクのガソリンも、勿体がらずに使ってしまおう。

人が群れる店内は欝陶しいから、飲み物をテイクアウトして、あの草食動物を後部座席に乗せて……もう一つ、彼が被るメットを用意しなくちゃいけないね。



END

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