Part1 Pantom Blood

□石仮面 その1
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 ――吹雪は止むことなく、私たちはその街についた。
 街の入り口前で、馬が高くいなないて、馬車が止まる。

「どうした御者、なぜ止まる?」
「だ……だんな方あ……あ……あっし、こ……これから先は行けねえ! 行けねえんですゥ!」

 御者は怯えた声で続けた。

「やばい……やばいんですゥだんな方あ。ここから先はやばい! 貴族の入りこむ所じゃねえ!
 よそ者のだんな方は知らないだろうけど、何百年も前から決まっているんですぜ! 呪われた者の住むところで、伝染病がはやる時はいつもここからなんです!
 その名も食屍鬼街ってんですぜェ!」
「…………ジョジョ、仕方ないわ。彼の言ってることに間違いは無いもの」

 ため息を付きつつ、私はジョナサンを諭す。
 すると、彼は扉を開けて馬車の外に出た。私も、その後に着いていく。

「ああ、知っててきた……」

 ジョナサンは軽く街を一望すると、御者の方に振り返った。

「ありがとう。ここから先は歩いて行くよ」
「や……やめなせえッ! うう……ジョースターさんの行くような所じゃあねえんですゥ!」
「わかってるよ……だけど、たとえこの右手を失う事になろうとも、行かなくてはならない理由があるのです!」

 それでも御者は、何とか引き留めようとする。
 私は御者の前に立ち、こう諭した。

「安心して。ジョジョの身は私が命をかけて守るわ」
「だ、だけど……」
「彼の覚悟……無駄にしないであげて」

 御者が何か言うよりも早く、私は踵を返してジョジョの後を追った。
 吹雪に混じって、流れてくる臭いは、14年前と全く変わらず、死臭がした。




 ――街の中をさ迷う私たち。歩けども歩けども、幾度となく行き止まりに突き当たった。
 私のいた頃とくらべると、街の様子は、すっかり変わっているように思えた。

「な、なんだこの街は?! ……また行き止まりだ、まるで迷路だ! 壁のひびまで怪物に見えるほど不気味な所だ……。
 ………………」
「どうしたの?」
「い、いや……小さいときのミツネは、こんな場所で暮らしていたのかと思うと少し、浸ってしまって……」
「……当時は母が生きてたから、少なくとも、その辺の孤児よりはいい生活が出来たわ。……?!」

 私は気配を感じて、ジョナサンの前に立つ。
 壁の前にある雪が、動いているように見えた。

「な……なんだ?! 雪が動くッ!」

 ドッパァと、雪の中から出てきたのは一匹の猫。何か加えている。
 久しぶりに見るその光景、後ろのジョナサンは驚愕していた。

「ううっ!ひ……ひどいッ。今のは猫が子犬を喰ってたッ!」

 ジョナサンは目を伏せたかと思うと、何かに気づいてか後ろを振り返る。彼の隣に来て身構えると、前方から三人の男がこちらに向かって来ていた。
 顔に大きな刺青を入れた男、中国人らしい拳法着を着た男、口に葉っぱか何かを加えた帽子の男の三人。明らかに、この街のゴロツキだった。

「おい、刺青! おめえっちのナイフにまかせるぜ!」
「ああ……」
「あの身なりのいいあんちゃんとねえちゃんの皮膚を切り刻んで身ぐるみはいじまいなッ!」
「なるほど、食屍鬼街か…………」
「来るわよッ!」

 まずかかってきたのは刺青の男だった。
 彼は奇声を上げながらナイフを振りかざす。私は無防備になった男の腹に蹴りをいれようとしたのだが、その前にジョナサンが出てきた。

「ジョッ……ジョジョッ!」

 ナイフがジョナサンの腹に入れられるかと思ったが、予想外の事が起きた。
 彼は、ナイフの刃を素手で掴んで止めたのだった。
 刺青の男も他の二人も、私も驚く。まぁ、彼の狙いは理解できたから、別にどうともしないけど。

「体のでけえタフなあんちゃんよォ!女庇ったのはいいが、おいらがこのナイフをちょいとひっぱったらどうなると思う? 完璧に4本の指はそげ落ちるぜ!」

 刺青の男は下卑た笑いを浮かべ、ジョナサンを脅す。彼が屈する訳無い。

「試してみろ!
 ひっぱった瞬間、ぼくの丸太のような足蹴りが君の股間をつぶす、それでもいいのなら!」

 ジョナサンの気迫に押されてか、男は黙った。

「ぼくには指4本など失ってもいい理由がある!
 それは父を守るため! ジョースター家を守るため! 君らとは闘う動機の"格"が違うんだ!」

 ジョナサンそう言い放つと、彼の後ろを中国人が取って蹴りをいれようとしていた。

「……ハッ!」
「アチャ!」

 中国拳法だなんだ叫んでいたそいつの顔面に、私は跳躍して蹴りを叩き込んだ。
 母から教わっていた武術が、初めて人を助けるために役立った……。

「舐めないで、私も彼と同じだけの覚悟があるのだから!」
「そこの東洋人……君なら知っているな…………東洋の毒薬を売っている店を!」

 地面へと叩きつけられた中国人を、私たちは見下ろした。
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