Part1 Pantom Blood

□過去からの手紙 その1
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 馬車で邸に戻る。雪が降っていて、空はとても暗かった。
 私は手早くメイド服に着替え、先に行かせたジョナサンたちの後を追って、ジョースター卿の元へ向かう。

「失礼します」

 部屋に入ればジョナサンとディオが、ベッドに横たわるジョースター卿の傍らにいる。私は無言で近付いて、卿に水を差し出した。
 ゴホゴホと咳き込むジョースター卿。かなり苦しそうだった。

「おとうさん、ご気分はいかがですか?」
「うむ……だいぶいいよ…………ゴホッ。ただ、せきが止まらないな……今日、医者に入院をすすめられたよ」
「入院? それはしない方がいいです」

 ディオの言葉に、私もジョナサンも怪訝そうな顔をしてそっちを見た。
 彼はとても心配そうな表情でこう続ける。

「病院は施設が悪いくせにもうける事ばかり考えて入院を勧めているんです」

 ……医学を勉強したわけでも無いくせに知ったような口を。でも、残念ながらディオの言葉は的を射ていた。
 ジョースター卿もうなずいている。

「うむ……わたしもことわったよ。自分の家の方が安心していられる。胸の痛みもなくなったし、手のはれもひいたみたいだ。良くなっている……」

 そうは言うものの、卿はまた咳き込んだ。

「とうさん……早く元気になってください。本当に!」
「無理はせず、ご用事は私どもに言いつけなさってくださいね」

 卿は私たちに笑顔を向けてくれた。ふとジョナサンを見れば、辛そうにうつ向いている。
 大方、考古学じゃなくて医学を学べば良かったとか考えているんでしょうけど、それは私だって同じ気持ちよ。

「ところでディオ! ジョジョ! ミツネ!優勝おめでとう!」

 ジョースター卿が、いきなり二人を褒め称えた。優勝って、今日のラグビーの話よね? でも……まだ卿には話してないはずだけど……。

「ええッ! もう知っているんですか?」
「なぜ……?」
「大学の友人がさっき来て、教えてくれたよ!」
「ひどい友人をお持ちです! ぼくらはまっ先に喜ぶ顔が見たくてすっとんで帰って来たのにッ!」

 場が笑いに包まれる。私は何がおかしいのかわからず、三人を見つめるだけだった。

「いやいや喜んどる! わたしは鼻が高いよ、すばらしい息子たちだ!」

 と、卿はディオを遠い目で見た。

「ディオ。君はとくにガンバッた……卒業したら、なりたいものになるがいい! 援助はおしまない。君はわたしの家族なんだからね」

 それに対し、ディオもまた卿を見る。いつだって変わらない、あの突き刺さるほど冷たい野心の目だった。

「貧しい出身のこのぼくに、チャンスを与えてくれてありがとうございます。ますます励みたいと思います」

 清々しいディオの笑顔。卿は満足そうにウンウンとうなずいている。
 私とジョナサンはといえば、そんな彼に不信感を含む視線をぶつけた。
 そして、薬を持ってきた執事に任せ、私たちは卿の部屋を後にしたのだった。
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