Part1 Pantom Blood
□侵略者ディオ・ブランドー その2
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屋敷がすぐ近くに見える敷地。ジョナサンは木の上に登ってパイプを吸っている。私は下で、鼻先をすり寄せてくるダニーの頭を撫でていた。
ふと、向こうにジョナサンの友達たちが、走り回っているのが見えた。彼はも気づいた様子で、手を振り呼びかける。
「おーい! みんな登ってこいよ! 隠れてパイプふかそう」
いつもならば。あの人たちは大喜びでこちらに向かってくるはずだった。けれど、彼らがジョナサンに向けたその目は、とても冷めたものだった。
「おい変なのがなんか言ってるぜ」
「向こう行こう。ここで遊ぶのは危ないぜ……チクられるからな」
彼らはボソボソそんな事を言って立ち去ろうとする。ジョナサンは驚き、そして憤慨した様子で木から降りてきた。
「なんだって!? ま……待て! 何があぶないだッ!!」
止めようとした時にはもう遅かった。ジョナサンは彼らに向かっていったかと思うと、そのまま一人を殴り倒したのだった。
「言ってみろッ! 誰がチクリだァ!!」
けれども相手は三人。もう一人が、棒切れでジョナサンの頭を殴る。ジョナサンは頭を押さえて地面に伏した。
「ジョジョ!」
「やっべ、ジョジョ大好きミツネが来るぞ! チクリ魔ジョジョとお似合いのミツネがッ!!」
「行こう!」
私たちに好き勝手言って、彼らは逃げるように立ち去って行った。顔を上げたジョナサンは、泣いていた。
「誰がチクリ魔だ! もどってこい! ぼくが何を告げ口したっていうんだ!? いつ何をしたっていうんだよーーッ!
ディオ! ディオだな! ディオが彼らにぼくの不利なデタラメふき込んだのだッ! なぜかディオはぼくを陥れる事ばかりしているッ! どんどん侵略される気分だッ!」
実際そうだから。私が半分呆れてジョナサンを見ていると、彼は何度もディオの名を叫んで坂道を転がる。片手が音を立てて川に浸かったところで、ようやく止まった。そのまま動かない。
……ショボくれちゃって。
放っておこうかと思ったけど、考えよりも先に口が開いた。
「……そこまで落ち込む事かしら」
「え……?」
「だって、あんなディオの根も葉もないデタラメを簡単に信じるヤツなんて、元々ロクなヤツじゃないってことじゃない。そんなヤツ、自分から友達止めてくれてよかったぐらいに思えば? 少しは区切りつくわよ」
「ミツネ……」
「勘違いはしないでよね。別にアンタを元気付けようとか考えて言ったわけじゃないわ。シケた面されるとうっとおしいだけよ」
その時、ダニーが私の横をすり抜けて、ジョナサンに甘えた。
ジョナサンの顔に、少し笑顔が戻った。
「そうだね……お前やミツネだけは、ディオが何したってぼくの友達だよね?」
「……犬と同列にされるとは思わなかったわ」
「えっ! あ、いや、ぼくはそんなつもりじゃ……」
「冗談よ」
「ニコリともしないで言うから……」
"パキ"という、小枝を踏み折る音がした。ジョナサンとともに振り返ると、上品なドレスを着た女の子が、顔を赤らめてこちらを見ている。手にはバスケットを持っていて、中にはブドウが入っていた。
どこかで見たことある顔ね。
そう思っていると、女の子は近くの木の枝にバスケットを引っかけて立ち去って行ってしまった。
「誰だ? 今の女の子、ぼくをじっと見てた………………どこかであった事あるよーな気もするけど。ミツネ、わかる?」
「……さぁ? 私もさっぱりだわ」
私たちは引っかけられたバスケットに近づく。よく見ると、ブドウと一緒に何か白いものが入っている。ハンカチのよう。そこには、"ジョナサン・ジョースター"と記名がされていたのだった。
「ぼくのハンカチ! 思い出した!人形をとられて泣いていた女の子だ!ハンカチ、洗ってとどけてくれたんだ!」
それはディオが来る前、ジョナサンが助けた女の子だった。確か……エリナという名前だったと思う。
ジョナサンは立ち去る女の子の背中に向かって叫ぶ。
「ブドウありがとう!
ねーッ、明日もここにいるから君もおいでよォーーッ!!」
女の子はなお振り返ることなく、とうとう見えなくなってしまった。
ジョナサンはその場に座ってブドウを食べ始める。かなりニヤけていた。
「へへへ……だまってたったのひと言も言わないで、女の子って、カワイイな。それに、あらためて思い出すにあの子バツグンにカワイイぞ!」
……彼の中で、私は女っていう部類じゃないのからしら? まぁいいか、追及するのも面倒だし。
私はジョナサンの横からブドウを一粒取り、口の中に放り込んだ。