Part1 Pantom Blood

□侵略者ディオ・ブランドー その1
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 ある日の事。ジョナサンとディオは並んで、ジョースター卿に勉強を教えてもらっていた。私は卿に呼ばれて、彼の手伝いをしている。
 と、ジョースター卿が、ジョナサンの手を鞭で打つ。あぁ、また間違えたのね。

「ギャッ!!」
「またちがえたぞッジョジョ! 6度目だッ! 同じ基本的な間違いを、6回もまちがえたのだぞ! 勉強がわからんというからわたしたちが見てやれば何度教えてもわからんやつだ!」

 ジョナサンは手を押さえてショボくれた顔をする。そしてジョースター卿の次の言葉が、さらに彼を落ち込ませた。

「ディオを見ろッ! 20問中20問正解だ!」

 ……溜め息しかでない私が、そこにいた。

 事はその日の夕食まで続く。
 昼間の事で打ちのめされたせいか、ジョナサンの今日の食事マナーはお世辞にも、良いと言えるものではなかった。
 不快な音を立ててガツガツと貪るように食し、口からは、食べカスが盛大にこぼれている。挙げ句、ジョナサンは水の入ったグラスを倒した。
 その様子に、ジョースター卿は怒りを露にして、机を思い切り叩く。

「ジョジョ。おまえ、それでも紳士か! 作法がなっとらんぞッ! 」
 
 そして、私の隣にいた召し使いにこう命令する。

「もうジョジョの食器をさげたまえ」
「えッ!」

 ジョナサンが驚き、少し身を乗り出す。ジョースター卿は厳しい表情で怒鳴った。

「もう食べんでよいッ! 今晩は食事ぬきだッ! 自分の部屋へ行きなさいッ!
 ディオが来てからおまえをあまやかしていたのを悟った! 親として恥ずかしいッ! ディオを見習え! ディオの作法は完璧だぞッ!」

 ジョナサンはすっかり小さくなってしまった。食器を下げられる際、ディオが鼻で笑いながらこう言う。

「フン! マヌケが」

 それを合図にするかの如く、ジョナサンは部屋を飛び出して行ってしまった。

「ジョジョ……」
「ミツネ、放っておきなさい」

 ジョナサンを追おうとしたけれど、ジョースター卿によって止められてしまった。私が黙ると、卿は不意に私に視線を合わせる。

「ミツネ」
「は、はい」
「後で私の部屋に来るように」
「えっ……は、はい。かしこまりました」



 そうして、夕食の時間はすぎ、私は言われた通りジョースター卿の部屋へやって来た。

「――ジョースター卿。ミツネです」
「入りたまえ」

 扉を開け、私は一礼したのち中に入る。ジョースター卿は本を読んでいた。

「何かご用でしょうか?」
「いや。大した用ではない。……君はディオくんについてどう思う?」

 という質問。私はなぜそんな事を聞くのか疑問に思いつつも、正直な事を口にした。

「正直……私はあまり好きません。見た目は物腰柔らかそうですからそういったイメージをお持ちで無いかもしれませんが……言葉使いは出の悪さが分かるほど粗野な時がありますし、ふるまいや作法だって、よく見れば至らない点がまだまだ多いかと。時折聞くジョナサン坊っちゃまの事を貶めるような言葉だって……。なぜ、あなた様が、あそこまでディオ様を誉めるのかわかりませぬ」

 言葉を切ればジョースター卿は私をじっと見ている。さすがに言い過ぎたかしら? でも、これが本心。

「……申し訳ありません。私ごときが出過ぎたマネを……」
「フッ。いや、構わんよ。むしろ面白いくらいだった」

 ジョースター卿は笑いながら言うと、私に手招きをして近づくように指示した。私が卿の隣に来ると、卿は慈愛に満ちた表情で言葉を紡いだ。

「……ジョジョには、この機会を使って、大きく成長してほしいと思っている」
「成長、ですか?」
「あぁ。君からすれば、至らないところがあるらしいディオくんだが、少なくともジョジョよりはいいはずだ。ジョジョはもう12になる。いい加減そろそろ、いろんなものに自覚を持ってもらわなければ困るのだ。ジョースター家を継ぐ者としてね。だからこそ、ディオくんという大きな存在と競い合い、自分を磨いてほしいのだよ」

 理解不能。ジョースター卿はここまで考えているというのになぜ、それをジョジョ本人に言わないのかしら? 貴族は皆そうなのかしら?

「成長するためなら、実の息子に嫌われてもいいと仰るのですか?」
「成長した時にそれをわかってくれればいいさ。……そうそうミツネ」

 場の空気が、やや重々しいものから軽いものへと変わり、私は思わず眉を潜める。

「君ももう11歳。誰か、気になる人はいないのかね?」
「気になる人、ですか?」
「好きな人、というやつだよ。一緒にいて楽しいと思う人とかさ」

 ハハハと笑いながら問いかけるジョースター卿。私はとりあえず、"仕事に支障が出ますので"と答えておいた。

 惚れたはれたの相手なんて、こんな私にできるはずがない。この時は、そう確信していたのだった。
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