Part1 Pantom Blood

□プロローグ
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 屋敷近くで、私と同じくらいの女の子が、近所の悪ガキに泣かされていた。低俗なガキどもは女の子の手から人形を奪い、その服を脱がせようとしている。だからといって別に助けるような事はしない。だって面倒だし。それに私が行かなくったって……。

「やめろォ! 人形をかえしてやるんだッ!」

 ホラね。私の予想通り、その女の子を助けに参上した騎士(ナイト)はジョナサンだった。けれど、腕っ節なんかからっきしのジョナサンは二人がかりで悪ガキどもにやられてしまう。しかも馬鹿な事に、彼は相手の挑発に乗るかのように自分の名前が書かれたハンカチを敢えて見せるように取り出した。案の定、怒りを買ってボコボコにされる。心配して歩み寄ってきた女の子の手を退けて、負け惜しみを言いつつ彼はこちらに歩み寄ってきた。……あ、ハンカチ落としてる。まぁいいか。

「ミツネ! もしかして、今の見てた?」
「……えぇ。相変わらず、腕がからっきしの癖してよくやるわね。逆に感心するわ」
「う、うるさい! ぼくは本物の紳士を目指しているんだ! 相手がどんなに強そうで体が大きかろうと……」
「はいはい。坊ちゃまのその言葉今日で3回目でございますよ」
「ぐ……」

 悔しそうな表情をしてだけど何も言えなくなるジョナサン。それを滑稽だと思った時、馬車の音が聞こえた。見ると、馬車は屋敷の前で止まる。そして中から鞄が投げられて、すぐにその持ち主も飛び出してきた。
 ……ジョナサンや私と同じくらいらしい。整った顔立ちと金髪はさぞかし女性受けが良さそうだ。けれどその目には、何かどす黒いものが煌めいているのを、私は感じ取った。
 そういえば。今日からジョースター卿の養子となる方がいらっしゃると、他のメイドたちが話しているのを耳にした。確か名前は……そう、ディオ・ブランドー。彼がそうなのだろうか?
 すると、ジョナサンがそいつに歩み寄る。

「君はディオ・ブランドーだね?」
「そういう君はジョナサン・ジョースター。そして……」

 その少年――ディオが私の方を向いた。

「君はミツネ・ヒサナガ、かな」
「……ええ」

 ディオは私を品定めするかのように見てくる。かなり不快だ。それを訴えるように私は彼を睨んでやる。そうするとディオはおどけたように大きく肩をすくませて私から視線を外した。

「みんなジョジョって呼んでるよ……これからよろしく」

 ジョナサンが握手を求めて右手を差し出した時、ディオの後ろから犬の鳴き声がした。

「ダニーッ!!」

 ジョナサンが膝をついて、ダニーのナを呼ぶ。ダニーは嬉しそうにこちらに走り寄ってくる。

「紹介するよ、ダニーってんだ! ぼくの愛犬でね、利巧な猟犬なんだ。心配ないよ! 決して人は噛まないから。すぐ仲良しになれるさッ!」

 もうすぐそこまでダニーが寄ってきている。ジョナサンの言うとおり、ダニーはとても利巧で優しい。こんな私にも懐いてくれたから、おそらくディオにだって。そう思っていたのだけれど……。

「ふん!」

 ディオが鼻で笑う。刹那。彼はダニーを思い切り蹴り上げたのだ! ダニーは一度中へ浮かび上がり、地面に叩きつけられる。私は思わずダニーに駆け寄った。

「なっ! 何をするんだーッ! ゆるさんッ!」

 ジョナサンは怒鳴り声を上げる。それに対してディオは、悪びれる様子もなく、むしろ好戦的な態度をとった。
 その目に宿った闇はどこまでも深く、私は少しディオを"恐ろしい"と思った。
 その場はジョースター卿の登場で事無きを得たけれど……。

 私はまだ、これが何世紀にも渡るジョースター家とディオの因縁の物語の幕開けとは分からなかった。
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