Part1 Pantom Blood

□DIOの誕生
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 ――小鳥の声と共に目が覚め、私は半身を起こした。

「目が覚めたのね」

 半ばいぼんやりした意識のまま、私は声のする方を見る。私と同じくらいの、若い上品そうな女性が傍に腰かけていた。

「気分はどう?」
「……あなた、は? ここは……」
「ここは病院よ。私の父のね。私の事は、覚えてないかしら?」

 微笑みを浮かべる女性には、面影があった。かつては泣き虫なところもあったけど、幼いながらに気高さがあった。

「エリナ?あなたなのね……?」
「久しぶりね、ミツネ・ヒサナガさん」

 口元を手で隠し、上品に微笑むエリナ。看護婦の格好はしたいたけど、その雰囲気は下手な貴族よりも気品に溢れていた。

「インドに行ったと聞いたけど、帰ってきてたなんて……」
「つい最近の事なのだけどね。それにしてもミツネさん、大きくなって。そしてますます綺麗になったのね」
「さん付けはよしてよ。あなたの方が年上じゃない。それに綺麗、なんて……あなたの方がずっとよ」
「ふふ、否定するところは変わらないのね」

 言い返されてしまった。エリナのこうしたところには叶わない。そして今気付いたのだけれど、私の右腕には包帯が巻かれていた。

「右肩が砕けているそうよ。ただの骨折じゃあないから、完治するのに半年はかかるみたい」
「……そう。でも、今後一切使い物にならないって言われるよりマシだわ。そうだ、ジョジョは?」

 そう問いかけると、エリナの顔が曇った。考えたくはないけれど、まさか……。

「……ごめん、なさい。守れなくて……」
「いいえ、大丈夫よ。確かに重症だけど、彼は生きてるわ。全身に火傷と、数ヵ所に骨折があるけれど」
「……」

 ジョナサンが生きている事にとりあえず安堵する。と、私はいまだに目を伏せているエリナに視線を向けた。

「ならどうしてここにいるのよ」
「え?」
「私の方が容態は軽いのでしょ? なら貴女はジョジョの傍にいるべきだわ。きっとジョジョも、それを望んでいるはず」
「ミツネさん……」

 エリナは目を細め私を見る。瞳が潤んでいるようにも見えた。右手を頬に当て、考えるような仕草を取る。

「そうかしら」
「そうよ。自信持ちなさいよ」
「……そうね。今までずっと彼についていたのだけれど、目覚めなくて……。今こうしてここにいるのも、自分の無力さに少し……」
「馬鹿ね。アイツの事だから、目覚めないなんてありえないわ。あなたが傍にいるならば尚更よ」

 エリナは少しだけ微笑むと、ありがとうと言って立ち上がった。

「そういえば、さっきジョジョの元にお客さんが来たわ」
「客?」
「顔に傷のある、少し怖そうな人。でも悪い人ではなさそうだったわ。面会謝絶だから、お帰りいただいたけれど」

 スピードワゴンが来たのね。あのバカの事だから、きっと今日の夜に忍び込んで来るわよ。
 そう言おうとした時、エリナの微笑みがいたずらっぽいものに変わり私は眉を潜めた。

「ミツネさん、すみに置けない人よね」
「はぁ?」
「その人ね、今のジョナサンには心が必要だとか何とか言ったあと、矢継ぎ早にあなたの事を聞いてきたの。病室はどこだとか容態はどうだとか、せめて彼女の傍にはいさせてくれとか。アイツはいつも一人だと思っているから誰かがいないとダメだってね」

 たちまち私の顔がおかしな熱を持った。頭に血が登る感覚がするが、それは怒りからではないのは明確だった。それに気付いたらしいエリナは肩を震わせる。

「ちょ、ちょっとエリナ!」
「ふふふ、意外に初なのねミツネさん。顔が林檎みたい」
「な、そ、そんな事……!!」
「ふふふふ……。それじゃあ、私は行くわ。安静にしているんですよ」

 そう言って、エリナは病室を出た。
 顔の火照りは冷めることはなく、私はベッドに潜った。そういえば、こんな気持ちを持ったのはこれが最初じゃない。そう、屍食鬼街でジョナサンが負傷し、あそこの病院でスピードワゴンと会話した時だ。
 ……これはあの時に感じたものと似ていた。
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