Part1 Pantom Blood
□石仮面 その4
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「スピードワゴン、ミツネ。君たちはここで待っててくれ。ぼく一人で決着をつけたい」
ジョナサンは、邸に戻るなりそう告げて、エントランスホールへ行ってしまった。
「……珍しくついて行かないんだな」
「こっそり警察に待機させてるから、大丈夫だとは思う。……それよりも、説明してもらうわよ」
「何がだ?」
「どうしてあんたまでついてきたのよッ。ワンチェンの事なら私に任せてと言ったじゃない! それに、これは私とジョジョの……いいえ、ジョースター家の問題よ、部外者が首を突っ込んでいいところじゃあ……」
「何言ってんだ。縛り上げたとはいえ何するかわかんねえんだぞ? 女にそんな危険なことさせっかっての。それにな、俺ぁ心配なんだ」
「心配? 一体何言って……ちょ、ちょっと?!」
私の言葉が終わらない内に、スピードワゴンはくるりと背を向けて、歩き出した。私は慌ててその後を追う。
「どこ行くのよ、ウロウロされたら困るわッ!」
「……感じ的に、エントランスはこっちか……」
「ちょっと! 聞いてるのッ!?」
「静かにッ」
スピードワゴンは私の唇に人差し指を立てた。私は驚きで言葉を失う。それはすぐに離れたのだけれど、わずかに触れていた部分がおかしな熱を持っていた。
「…………ミツネ」
「なっ……何よ?」
「ディオってえのは、アイツか?」
彼は柱の向こうを指さす。覗いてみると、ジョナサンとディオが対峙していた。ディオは落ち込んだ、覇気のない様子で椅子に深く腰かけている。
「ジョジョ! ぼくは悔いているんだ、今までの人生を!
貧しい環境に生まれ育ったんで、くだらん野心を持ってしまったんだ! バカなことをしでかしたよ……育ててもらった恩人に毒を盛って、財産を奪おうなんて!」
ツーっと、ディオ頬に涙が伝う。
「その証に、自首するためにジョースター邸にもどってきたんだよ。逃亡しようと思えば外国でもどこへでもいけたはずなのに!
罪の償いをしたいんだ!」
少なくともジョナサンには、その叫びはディオの本心のように聞こえたかもしれない。でも、私やスピードワゴンが、その奥に潜む闇を見つけられないはずはなかった。
私とスピードワゴンは静かに柱の影から躍り出る。
「ジョースターさん……気をつけろ! 信じるなよ、そいつの言葉を!」
「まったく、何が自分一人で決着をつけたい、よ……」
「ヌムッ!」
ディオがこちらに振り返った。と、スピードワゴンが高らかに名乗りをあげる。
「『誰だ?』って聞きたそうな表情してんで、自己紹介させてもらうがよ、おれぁおせっかい焼きのスピードワゴン!
ロンドンの貧民街からジョースターさんとミツネが心配なんで、くっついてきた!」
「…………ジョジョはともかく、私は大きなお世話。子供じゃああるまいし」
私とスピードワゴンはジョナサンの傍に歩み寄る。私はジョナサンを守るため身構え、彼はこう言った。
「ジョースターさん! 甘ちゃんのあんたが好きだからひとつ教えてやるぜ!
おれぁ生まれてからずっと暗黒街で生き、いろんな悪党を見て来た。だから、悪い人間といい人間の区別は『におい』で分かる!」