Part1 Pantom Blood

□石仮面 その2
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 取り巻き二人を倒した私たち。ジョナサンの手から、ゆっくりナイフが落ちる。同時に鮮血も流れたが、彼の表情はほとんど変わることはなかった。

「ミツネ、大丈夫かい?」
「その傷でなに人のことを心配してるのよ。……私は大丈夫。あなたは?」
「この程度、問題ないさ」

 ジョナサンが頷く、と、主犯格とおぼしき帽子の男が向かってきた。

「おまえら、指4本失うくらい平気と言ったな! ああ〜ん?」
「待てッ! 早まるなッ! ぼくらは東洋の毒薬を売る人間を探しに来ただけだ!」

 ジョナサンが制止するも、男は聞く耳を持たなかった。
 男が被っている帽子のつばに触れる。すると、つばの布が剥がれて、中から刃が飛び出したのだ。
 …………この街のゴロツキの割りに、随分いいアイディアを出すわね。私は少しだけ関心してしまう。

「ハッタリぬかすなよーッ。金持ちのアマちゃん!」

 男が大きく頭をふると、帽子が頭から離れ、まるで生き物のように男の腕や手の腕を移動する。指で弾かれた帽子は、また男の頭に戻った。

「ためしてやるッ!!」
「どうしてもか……?
だが、どんな妨害があろうと……突き止めるのみ! 毒薬の売人を! 解毒剤を!!」

 私とジョナサンは、防御態勢をとる。
 ふと彼に目を向けた時、私は大変な事に気付いてしまった。

「ちょ、ちょっとジョジョ!」
「なんだァこいつあ〜? 男の方はケンカのド素人だ!
 護っているのや頭部だけで、あとは全部…………スキだらけだぜ――ッ!!」

 私は慌ててジョナサンの前に飛び出そうとしたのだけど、彼が片手で私を制して止める。その瞬間、彼は地面の雪に刺さっていたナイフを思いきり蹴りあげたのだ。
 ナイフは回転を加えて帽子の男の方へ。結果、投げられた帽子の軌道は反れたは反れたのだが……。

「ぐアァ!!」
「ジョジョォ!」

 刃が彼の腕に深く突き刺さる。強い回転力をもったそれは、さらに深く食い込んでいき、骨にまで達した音がした。
 勝ち誇る男。ジョナサンは、油断した相手に突進する。驚く男の顔面に蹴りを叩き込んだ。
 男は宙を舞い、地面に墜落した。

「ジョジョッ! 腕を見せてッ」
「見た目ほど、大した事は無いから大丈夫だよ」
「馬鹿言ってんじゃないわ! 骨まで行ったのよ、早くッ」

 まだ渋るジョナサンの腕を、私は無理矢理掴んで傷の具合を見た。
 確かに思ったほどの出血はない。けれど、大ケガであることには間違いなかった。
 私は服の袖口を破り、傷口を強めに縛った。

「ミツネ、ありがとう」
「フン…………?!」

 いつの間にか、私たちは、ここのゴロツキや浮浪者どもに囲まれていた。悪魔のような人相でこちらを睨み、手には鎌や、斧を持っている。
 構える私たち。声は、意外なところから飛んできた。

「や、や……やめろみんな!」
「!」

 それは、あの帽子の男だった。男が制すると、ゴロツキや浮浪者はピタリと動きを止める。

「その紳士らに手を出すことは……このスピードワゴンがゆるさねぇ!」
「紳士?」

 男――スピードワゴンとやらの発言にジョナサンは不思議そうな目をする。
 と、スピードワゴンがこちらを見て聞いてきた。

「二人に聞きてぇ! なぜ思いっきり蹴りを入れなかった? あんたのその脚ならよォ、おれの顔をメチャメチャにできたはずなのによォ!
 女!あんたもだ! 見たとこ腕に覚えがあるようだが、なんでさっき帽子を投げる前に出なかったんだ?」

 一瞬だけ、場に沈黙が走った。

「ぼくは……父のためにここに来た……。だから蹴る瞬間!君にも父や母や兄弟がいるはずだと思った……君の父親が悲しむことはしたくないッ!」
「……これだけの決意と覚悟を持ってる彼の、邪魔をしたくなかった。彼が私を制する時は、いつも何かしらの意図があるもの……」

 スピードワゴンが驚いたように目を見開く。彼はちらと、先ほど倒した刺青と中国人の男を見て、小さく笑った。

「あんたらの名前を、聞かせてくれ……」
「ジョナサン・ジョースター」
「ミツネ・ヒサナガ」

 私たちが名乗り入れると、スピードワゴンはこう言った。

「東洋の毒薬を売るヤツを探していると言ったな!気をつけな!ヤツはこすずるいぜ!」
「!」
「……!! 知っているのか?」
「腕の手当てをしなよ…………このスピードワゴンが店まで案内してやるぜッ!」

 ジョナサンの顔が、パッと明るくなった。
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