Part1 Pantom Blood

□侵略者ディオ・ブランドー その4
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「こ……こんな……」

 ……あのディオが、ジョナサンに成す術もなく殴られ続けている。こんな言い方をしては失礼だけど、私にはそれが夢の中の出来事のように信じられなかった。その光景自体もそうだけど、何より、あのひ弱なジョナサンに、こんな力があったなんて……。

「こ……こんな! こんなカスみたいなヤツにこのディオがッ!」

 散々殴られ、最後にディオは強烈な一撃を喰らい、派手に吹っ飛んだ。彼の口から吐き出された血が宙を舞い、それは壁に飾ってあった石の仮面に付着した。
 
「……えっ……?」

 その瞬間だった。血を浴びた石の仮面が、ブルブルと震えだした。やがて、パキパキという何かが剥がれるような音がして、仮面から細い触手のようなものが何本も飛び出したのだ。
 触手が飛び出した事で石の仮面は壁から離れ、床に落っこちた。その音で、ジョナサンも仮面の異常に気付く。私と同じように、驚愕の表情で仮面を見つめていた。

「な……何なの……? 血を浴びた瞬間、仮面が……」

 その時、ジョナサンが我に返ったように「はっ!」と言った。それに反応して、私はジョナサンの方を見る。そこには、立ち上がろうとするディオの姿があった。

「よ、よくも……よくも、よくも! このぼくに向かって……」
「! 嘘……ッ?!」
「な、涙…………」

 あのディオが泣いている。目を疑うとは正にこの事。私は思わず目を擦って、もう一度確認した。でも、やっぱり映るのは、悔しさと憎悪に満ちた表情で泣き、こちらを睨み付けるディオの姿だった。

「このきたならしい阿呆がァーッ!!」
「……?!」

 見ればディオは、背中で折り畳みのナイフを取りだし、踏み込んでいる。狙いはジョナサンだった。

「ジョ、ジョジョっ!!」

 私はジョナサンを助けようと、無我夢中で彼の前に立った。ディオが息を飲む音と、私の名を叫ぶジョナサンの声がして……きゅっと、目を瞑った。

「ふたりとも、いったい何事だッ!」

 その時、頭上から声が聞こえた。見れば、ジョースター卿が、階段の上から私たちを見下ろしている。

「父さんッ!」

 彼の登場で、ディオが慌ててナイフを隠すのを私は見た。

「男子たるものケンカのひとつもするだろう!
しかしジョジョ!
今のは抵抗もできなくなったディオを一方的に殴っているように見えた!
紳士のする事ではないッ!」

 ジョースター卿は怒り心頭の形相でジョナサンを叱りつける。勿論、ジョナサンは否定したのだけれど……。

「いいわけ無用! 部屋に入っとれッ。
ふたりともだ! あとでふたりとも罰を与える!!」

 ジョースター卿の厳しい言葉に、私もジョナサンも、ディオですら何も言えなかった。
 ジョナサンとディオはお互いに睨み合い、やがてそれぞれの部屋に戻っていった。
 動けないでいる私の肩に、ポンと手が置かれて我に返った。

「ハッ……!」
「ミツネ。ジョジョとディオのケンカを止めようとしてくれたのだね」

 いつの間にか、ジョースター卿が私の隣りにいて、優しい微笑みを向けている。

「怖かっただろう。さぁ、君も部屋に戻って、ゆっくり休みなさい」
「……ジョースター卿」
「何かね?」
「いえ……失礼いたします」

 私はジョースター卿に一礼して、自室へ一歩踏み出す。
 振り返ると、あの石の仮面が落ちていた。さっきあったはずの針のようなものは見受けられず、それがどこまでも不気味だった。
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