Part1 Pantom Blood
□侵略者ディオ・ブランドー その3
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――……ディオが、エリナにキスをした。私は驚きすぎて、また状況をうまく飲み込めなくてその場に呆然と立ち尽くしてしまう。
「さすがディオ! おれたちにできない事を平然とやってのけるッ、そこにシビれる!あこがれるゥ!」
やがて、ディオがエリナから唇を離し、彼女が水溜まりに突き飛ばされた音で、私はハッと我に返った。
「君……もうジョジョとキスはしたのかい? まだだよなァ?
初めての相手はジョジョではないッ! このディオだッ!」
勝ち誇ったようなディオの笑み。エリナは地面に伏せたまま涙を流していた。
「……ッ! ディオッ!!」
私は怒り任せに叫び、エリナを助け起こすため彼女に駆け寄る。でも……私はその、彼女の次に取った行動によって、足を止めてしまった。
「ああっ、みっ……見ろ! こ、こいついったい!?」
『!』
「こいついったい何考えてんだッ! ドロ水で口を洗っているぞッ!!」
エリナは突き飛ばされたところにある水溜まりの水で、泣きながら口を洗っている。水は取り巻きどものいうように、茶色く濁ったドロ水だ。衛生とかそういうものは最早存在していないかのよう……なのに、彼女はそれを何かの贖罪のように続ける。
なぜ? 近くに川だってあるのに……私もディオの取り巻きも、理解出来なかった。
「この女ッ!」
突然、ディオが憤慨した。取り巻きを押し退け、エリナに向かって右手を振り上げる。
「わざとドロで洗って自分の意志を示すかッ! そんなのはつまらんプライドだァ!」
かわそうと思えば、そのビンタはかわせなくもないモノだ。でも、エリナはそうはしない。怖じけづく様子もなく、むしろ、ディオの事を睨み付けていた。
高い音がして、エリナの頬が打たれる。彼女は再び水溜まりに吹っ飛ばされた。
「エリナ……ッ!」
「ミツネか……もういい! 行こう!」
ディオは負け惜しみのようにそう言い、取り巻きと一緒に去った。
「…………エリナ。大丈夫?」
「うっ……貴女は、ジョジョの……」
「立てる? ドロが服に染み付いてしまってるわ」
私はエリナの体を支えて一緒に立ち上がる。
「だ……ダメよ。貴女の服も汚れてしまうわ……」
「使用人の服なんて、汚れてなんぼなものよ。それよりも、ドロを落とさないと、乾くと厄介だわ。……そうだ、あなた着替え持ってる?」
「え……? あ、いえ、水着しか無いわ」
「さすがに水着で帰る訳にもいかないわね……少し待ってて。取ってくるから」
そうして私は、呆然としているエリナをひとまずおいて、屋敷に戻る。そして、自室に入り、少し前にジョースター卿からもらいうけた外出用のワンピースを引っ張り出した。私は彼女より少し背が高いくらい。でも、大きい分には問題ないわ。そしてまた、大急ぎで彼女の元に戻る。
この時誰とも会わなかったのは、幸運と言うべきなのでしょうね。
「はい。川で体を洗って取り敢えずこれに着替えなさい。タオルなんかも持ってきたから。私はその間に、あなたのもとの服、洗っといてあげるから」
「あ……ありがとう」
一緒に川の方に行き、エリナは体を、私は彼女のワンピースを洗う。せせらぎの音を聞きつつ、そうしていると、彼女は私に話しかけてきた。
「優しいんですね、ミツネさんて」
「勘違いしないで。……私は申し訳なく思ってるの。私、あなたがディオにされた事、見てたの。助けに入らないで。あなたがジョジョにとって、どれだけ大切な存在か、知ってるのに……」
「そんな……貴女のせいじゃないですよ。……そうやって、親切じゃないように見せるところ、ジョジョから聞いたまんまだわ」
クスクスと笑いながらそんな事を言うエリナ。全く、あの人は本当余計な事しか話さないんだから。
「……もう大分日も傾いてるわ。送っていくから」
「え……でも……」
「いいからやらせて。またあなたがディオにでも鉢合わせしたら大変だから」
またエリナが笑う。私はおかしな気分になって、彼女に出来るだけ視線を合わせず歩くことにした。
『素直じゃないねぇ、アンタという子は』
また、母さんのそんな小言が脳内に響いた。