Part1 Pantom Blood

□侵略者ディオ・ブランドー その1
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「疲れたろうディオくん! ロンドンからは遠いからね。君は今からわたしたちの家族だ。わたしの息子ジョジョと同じように生活してくれたまえ」

 ジョースター卿が笑顔でディオを迎える。隣に立つジョナサンの表情は硬い。まぁ当然の事でしょう。すると、卿が私に対して手招きをするので、ジョジョの反対側の隣に、私は歩み寄る。卿は後ろを向いて、後ろに立つ召使いや、メイドたちを手でしめした。

「彼らは家事をしてくれるみんなだ。わたしは貿易の仕事をしており、時おり家をあけることもある。彼らにすべてをまかせてある……そして」

 卿は私の肩に、ポンとその大きな手を置いた。

「知っているかもしれないが、彼女の名はミツネ・ヒサナガ。この年で彼らをまとめる役、メイド長をしているんだ。私の娘のような存在だ。君と年も近い。頭のいい子だし、仲良くできるだろう」
「ジョースター卿。御好意大変感謝いたします」

 ディオが先ほどとは人が変わったようになり、丁寧な態度でお辞儀をする。その様に、私は背筋が凍り付くかと思った。

「ジョジョも母親を亡くしている。それに同い年だ。仲よくしてやってくれたまえ。
 ジョジョ……ダニーの事は、もういいね?」

 卿はジョナサンの方を抱き、諭すように言う。これで、彼はどう出るかしら?

「はい…………ぼくも急に知らない犬が走ってきたら、ビックリすると思うし、気にしてません」

 ……予想通りの答えすぎて、私は思わず噴出しそうになる。ディオは意地の悪そうな笑みを浮かべた。全く、"謝ってほしいかも"くらいの事を言えばいいのに。
そんな息子の心情を察する事ができないジョースター卿。階段を軽く上がってこちらを呼ぶ。

「来たまえディオくん。君の部屋に案内しよう!」

ディオは後をついていこうとすると、今は亡きジョースター卿の奥様がメキシコで買ったという不気味な仮面をちらりと見た。
すると、親切心からかジョナサンはディオに近づいて、彼の鞄に手を伸ばした。

「!」

彼はジョナサンの腕を捻り上げた。

「?! うあぁ……う……う!!」
「ジョナサン!」

ディオは相変わらずの高圧的な態度で、こう言う。

「何してんだ? 気安くぼくのカバンにさわるんじゃあないぜ!」
「え?」
「この、こぎたない手でさわるな! と言ったんだマヌケがッ!!」
「な……?!」

ディオの態度の悪さに、私は思わず絶句してしまう。いくらこの先は対等な立場になるとはいえ、こんなことあっていいはずはない。

「運んであげようと…………」

それでもジョナサンは、あくまでいつもの優しい口調だ。ディオはイラついた様子でさらに彼の腕を捻る。

「けっこう! 君の手は犬のヨダレでベトベトだァ! それに荷物はさっそく召し使いに運んでもらう!」

クルリと体を回してジョナサンに肘鉄を喰らわせる。苦しそうに顔を歪めるジョナサン。ディオは謝る様子もなく周囲を確認すると、ジョナサンの耳元で何か囁いた。内容は分からないけれど、ジョナサンの表情を見るに良い内容とは思えなかった。
すると、ディオは急に私の方を向いて、黒く深い笑みを向ける。私が驚いていると、彼は自分の鞄を指差した。

「ミツネ! これをぼくの部屋に運べ!」
「……はぁ?」
「はぁじゃないだろう。君は使用人なんだ、主の命令を聞くのは当たり前だろう」

 どこか勝ち誇ったような目をしてディオは私を見る。だけどこの時、私は本日初めての……笑みを浮かべる事ができた。

「申し訳ありませんが、私の主はジョースター卿ただひとりでございます。ですので……他の奴に頼むか、いっそその程度自分でやれば?」

私の発言にディオも、そして隣のジョナサンさえも驚いている。ディオに睨まれたけれど、不思議と恐れも恐怖も無くなった。

「三人とも。何をしておるのだ? 早く来なさい」

ジョースター卿の呼び掛けにまずディオが反応し、後に続く。私は倒れたままのジョナサンを軽く蹴った。

「いっ!? ……な、何するんだよ」
「そこまで強く蹴ってないわ。……ディオに友情を求めるのは無謀と考えなさい。アイツの目は普通じゃない」
「どうしてそんな事がわかるのさ?」
「同族の臭いがするから」
「えっ……?」
「あなたたち貴族には一生わからない臭いでしょうけど。……さ。早く行くわよ」

ジョナサンを立ち上がらせ、よろめく彼を支えつつ階段を上がる。
ディオは、"アノ街"の出に違いない。ディオの身のこなしは、あの地獄を生き抜くために、あそこで育った輩がする動きと全く同じだった。ただ気がかりな事がもう1つ。
ディオのあの目は……一体何を考えているのかしら? 分からないほど、その色は余りにドス黒かったから。

それからというもの、それまで楽しかったであろうジョナサンの生活は、彼にとってとてもつらいものとなってしまった。
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